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February 26, 2018

Jリーグ開幕! ポステコグルー新監督を迎えたマリノスのハイリスク戦術

オーストラリア●今年はワールドカップが開かれ、ニッポン代表もめでたく出場権を勝ちとったわけだが、アジアのライバルであるオーストラリア代表がどうなったか、ご存知だろうか。新しい「つなぐ」スタイルを掲げて生まれ変わろうとしたオーストラリアは、アジア予選で苦戦した結果、アジア・プレーオフを戦い、これを勝ち抜いて大陸間プレーオフを戦い、さらにこれを勝ち抜いて苦労の末にワールドカップ出場権をもぎ取った。そのオーストラリア代表を率いていたポステコグルー監督は、出場権を得た後に辞任した。えっ、どうして?……と思ってたら、まさかまさか、来ました、ウチに! よもやのマリノス新監督に就任。サッカー界、不思議万歳! トホホ(?)。
●えっと、いや、知ってる、ポステコグルーの評価が高いことは。シティ・グループが目を付けていて、だから資本関係のあるマリノスに招聘され、行く行くは欧州への道が開かれているかもしれないんだとか。でも、あんなに強かったオーストラリア代表が、フィジカル勝負を封印して世界を見据えてポゼッションにこだわった結果、弱体化してしまったのをワタシらは見ているわけで、ポステコグルーが名将といわれてもピンと来ないんじゃないだろか。代表以前のAリーグ(オーストラリアのリーグ)での成功を知らないわけだし。
●で、注目のJリーグ開幕戦、セレッソ大阪vsマリノス。昨季コテンパ(死語)にやられたセレッソとアウェイで戦うことに。やってくれました、ポステコグルー新監督。従来のチームカラーとは一変して、ハイプレス、ハイライン、ハイリスクのスリリングすぎるモダンフットボールを展開するマリノス。きわめてエネルギッシュな戦術で、前線から精力的にプレスをかけ続けるだけではなく、ディフェンスラインを高く上げて、後ろに広大なスペースを残す。そして、両サイドバックは高い位置をとり、なおかつどんどん中に入る(ここが特徴的)。中央の厚みを増して攻撃に参加する。で、後方のスペースをスイーパーのようにカバーすべくゴールキーパーがガンガンと前に出る。キーパーは飯倉なのだが、彼の走行距離を見て驚いた。キーパーなのに6.5キロも走ってる! フォワードのウーゴ・ヴィエイラなんて80分出場で8.1キロしか走ってないのに。
●この戦術、前半はぴたりとハマったように見えた。ほとんどの時間帯でアウェイのマリノスがボールを支配。前からの守備は非常に有効で、中に絞るサイドバックに対して相手の選手が付き切れない。後ろにできたスペースも選手間の連携でカバーできていた。前半17分、左サイドバックから中に入っていた山中が鮮やかなミドルシュートで先制。マリノスはGKに飯倉、DFは山中、ミロシュ・テゲネク、中澤(40歳だ)、松原、MFは喜田、中町、天野、前線は左サイドにユン・イルロク、右サイドに遠藤渓太、中央にウーゴ・ヴィエイラ。
●ところが後半になると次第にペースダウンし、たびたびピンチを迎えるもセレッソが決定機を外し続けて救われるという展開。これは勝てるかも、と思った86分、中澤のクリアミスから柿谷に決められて1対1。最後はフラフラになりながら耐えて、勝点1を確保したといったところ。さて、ポステコグルー新監督の戦術は機能していたということになるんだろうか。
●答えはなんともいえない。というのも前半は確かに成功していたが、マリノスはラッキーなオフサイドの判定に救われて1失点を免れた。一方、マリノスの得点は相手を崩したというよりはミドルの個人技一発。一試合を通じて、セレッソにはなんどもディフェンスを崩されていたが、マリノスが相手を崩して作ったチャンスはほとんどない。多くのチャンスはプレスから相手のミスを誘って生まれていた。でもせっかく高い位置でボールを奪ってもシュートにまで結びつく確率がかなり低いのが気になる。そして、今後、同じ戦術で戦う限りなんども見かけることになると思うのだが、前半はハイプレスが効いていても、後半途中から選手間の距離が広がりラインが間延びして、それまでのゲームはなんだったのかというノーガードの打ち合いみたいな展開になる。2月でもこんな調子なんだから、暑くなったらどうなることやら。あと、今日もあわやのシーンがあったが、キーパーが極端に前に出ることから誘発される決定的なミスも頻発する予感。
●もっとも、昨季の攻撃の二大エース、齋藤とマルティノスが抜けて、個人で局面を打開できる選手がいなくなってしまったことを考えると、ある程度思い切った戦術を取るしかないのはよくわかる。肉でもない魚でもない戦い方で8位や9位くらいで終わるなら、上位も下位もありうるようなエキサイティングな戦術で戦ってくれたほうがおもしろい(と自分に言い聞かせる)。