March 23, 2018

鈴木優人チェンバロ・リサイタル

●雪とみぞれの21日はトッパンホールで鈴木優人チェンバロ・リサイタル。オール・バッハ・プログラムでメインは「ゴルトベルク変奏曲」。それに先立って前半に、「プレリュード、フーガとアレグロ」変ホ長調BWV998、カプリッチョ「最愛の兄の旅立ちに寄せて」。実はこの日はバッハの誕生日、であるばかりか、生誕333年というキリのいい(?)記念日でもあった。それがうまく春分の日と重なって祝日。3つの部分からなり3部形式のフーガを持ちフラット3つの「プレリュード、フーガとアレグロ」で始まり、30の変奏からなり、3の倍数の変数がカノンになっている「ゴルトベルク」で終わるという、生誕333周年。トッパンホールの親密な空間で多彩で創意にあふれたバッハの音楽にどっぷりと浸る至福の時。「最愛の兄の旅立ちに寄せて」が旅を予告するように、これはひとつの旅のような音楽会だったと思う。「ゴルトベルク」はいつだってそうだけど、リピートありだとなおさら。最初のアリアで出発するときのワクワクするような期待感が、最後のアリアで帰ってきたという安堵の思いに収束されてゆく。
●「ゴルトベルク」の変奏は3曲ごとにカノンが入るので3曲ワンセットではあるわけだけど、全体に伏流するような大きなストーリー性もなんとなく感じる。おおむね、軽やかに始まって重く終わるというか。第15変奏で最初に短調の変奏が出てくると、一気にガラッと孤独なモノローグのような雰囲気になる。それが第16変奏で急に堂々たるフランス風序曲でかしこまってリスタートを告げる。この折り返し地点の明暗というか暗明がドラマティック。あと、第25変奏で短調の変奏が出てくるところも区切り感がある。ここからラストスパートしますよ、みたいな。続く第26変奏がやたらと活発で狂躁的なところの対比も効いているし、ひとつひとつの所作に重みが出てきて、明るい曲にもしみじみとした旅の終わりの予感が漂うかのよう。第29変奏がスペクタクルという点で最大の山場で、最後の変奏である第30変奏のクオドリベットでは、すでにみんなに「ただいま」を言っている(と感じる)。最後のアリアで「おやすみ」。
●配布されたプログラムノートには優人さんが事前にTwitterで一か月をかけて一日一つぶやきしてきた「ゴルトベルク変奏曲」各曲の解説がまとめられていて、この手があったか!と膝を叩く。一瞬、Twitterのつぶやきをまとめたのかと錯覚したけど、それだと印刷が間に合わないので、先に原稿を書いておいて、Twitterで毎日連載してくれたということか。妙案。

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