July 5, 2018

新国立劇場「トスカ」

●ワールドカップはラウンド16と準々決勝の間に中二日のお休みが入る。この中二日を有効に活用するのが4年に1度の「ワールドカップ進行」の肝。
●ということで、4日は新国立劇場でプッチーニの「トスカ」。定評あるアントネッロ・マダウ=ディアツ演出の再演で、オーソドックスな本格派の舞台。各幕ごとにゴージャスな舞台装置が用意されていて、視覚的にもスペクタクル。トスカにキャサリン・ネーグルスタッド、カヴァラドッシにホルヘ・デ・レオン、スカルピアにクラウディオ・スグーラ。歌手陣も十分にすばらしいが、白眉はロレンツォ・ヴィオッティ(マルチェッロ・ヴィオッティの息子)指揮の東フィル。明快で輝かしいサウンドで、情感豊かでドラマティック。煽るところは煽りつつも、バランスを崩さない。近年、新国で聴いた東フィルのなかでは、もっとも心に残る好演だった。もともとこの作品、自分のなかではプッチーニの多彩なオーケストレーションが最大の聴きどころなので、大いに堪能。やはりオーソドックスな演出は、音楽に力があってこそと再認識。
●「トスカ」って名作中の名作なんだけど、ヒロインがイヤな女っていう珍しいパターンだと思うんすよね。なにしろ病的に嫉妬深い。しかもその嫉妬深さが愚かさに直結していて、見当ちがいな猜疑心のために自分も恋人も破滅してしまう。画家が描いた絵の目の色を青から黒に直せっていうリクエストも、芸術家としてどうかと思うんだけど。スカルピアにナイフを突き刺す場面には親指を立ててグッジョブ!とねぎらいたくなるが、なんだかその後の牢屋でカヴァラドッシに会う場面にうっすらと図々しいオバサン感が漂っている。「ほら、あんた、ちゃんと銃が鳴ったらバタン!と倒れんのよっ! うまくやってよね」みたいな。かねがね思ってるんだけど、トスカって本当はスカルピアと似合いのカップルなんじゃないかな。つきあってみたら意外と気が合う気がする。カヴァラドッシみたいなリベラルな男とうまくいくはずがない。
●「トスカ」にしても「マノン・レスコー」にしても「蝶々夫人」にしてもそうなんだけど、作者のヒロインに対するジワ~っとした悪意を感じる。なにかの復讐、かな。

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