November 6, 2018

ベルリン・フィル・レコーディングス2018秋・冬リリース発表記者会見

ベルリン・フィル・レコーディングス記者会見 with 内田光子
●5日はサントリーホールのブルーローズ(小ホール)で、ベルリン・フィル・レコーディングス2018秋・冬リリース発表記者会見。登壇者にはベートーヴェンのピアノ協奏曲全集のソリストである内田光子さんをはじめ、ベルリン・フィルのソロ・チェロ奏者オラフ・マニンガー、ベルリン・フィル・メディア取締役ローベルト・ツィンマーマン各氏。さらに内田さんの対談役としてオランダ・フィリップス・クラシックの元副社長である新忠篤さん、音楽評論家の山崎浩太郎さんと中川右介さんも。全3部にわたる90分超のゴージャスな会見になった。
●まず第1部は、サイモン・ラトル指揮によるマーラーの交響曲第6番「悲劇的」。これはラトルの最終シーズンを締めくくる記念碑的な演奏。今回も「包括的なコンサート体験をセットにしたい」(ツィンマーマン)と考え、パッケージにはBlue-rayディスクに演奏会の映像に加えてラトル時代を振り返るドキュメンタリー、96kHz/24bitのハイレゾ音声を収録し、加えて通常の音楽CD、さらに192kHz/24bitの超高音質音源ファイルのダウンロード・コードが付いてくるという、いつも通りの至れり尽くせり仕様。しかも、今回は1987年にラトルがベルリン・フィルにデビューした際に指揮したマーラーの交響曲第6番のCDも付いてくる。つまり、ラトルはベルリン・フィルのデビューと、首席指揮者としての最後の演奏会で、同じ曲を指揮したのである。
●マニンガー「これは圧倒されるような音楽です。ベルリン・フィルの首席指揮者とお別れするという演奏会をいったいだれが体験できるというのでしょうか。私たちにとって特別な演奏会になりました」「サー・サイモンがベルリン・フィルでの最初と最後の演奏会に同じ曲を選んだことがすごいのではありません。最初にまだ若い指揮者がこんな曲を選んだこと、選ばせてもらえたことが非凡なのです。この曲はむしろ、最後に選ぶのにふさわしい曲です。この間にサー・サイモンは血気盛んな若い指揮者から成熟した指揮者に変わりました。この間になにが起きたか、どれだけサー・サイモンが表現力を増したか、ふたつの録音から感じてほしい」
●第2部は内田光子独奏、サイモン・ラトル指揮によるベートーヴェンのピアノ協奏曲全集。こちらもBlue-rayとCDのセットで、演奏会映像とハイレゾ音源、CD音声、超ハイレゾ音源のダウンロード・コードがセットになっている。インタビュー映像付き。これは2010年2月に3週間にわたって行われた演奏会を収録したものだが、その時点ではこうしてパッケージでリリースする予定はまったくなかったのだとか。ラトルとのベートーヴェンの交響曲全集がリリースされた際に、ピアノ協奏曲もセットにできないかという話が持ち上がり、関係者全員の賛同を得てリリースに至ったという。
●内田「これだって9年も前の録音ですから、最初は嫌だと言ったのですが、とてもいいから本当に聴いてほしいと言われて聴いてみた。そうしたら生の演奏からしか生まれないバイタリティがあった。当時のベルリン・フィル、当時のサイモン、まだ若いなあと思った自分の三者が一体となった演奏だったから、そのときの記念として残したんです。本当は何度も同じ曲を録音して残したいとは思っていません。なんども録り直したけど、最初がいちばんいいということだってよくあること。これはある日の出来事の記念物。私にとってどんな録音にも絶対性はない。絶対性があるのは楽譜だけ」「ベルリン・フィルはいわば怪物。怪物と一緒に弾くという楽しさがある。サイモンが怪物かというと、どうでしょう、ベルリン・フィルのほうが怪物だと思います」。この言葉を横で聴いていたマニンガーが笑っていた。
●第3部は「フルトヴェングラー帝国放送局アーカイブ 1939-45」。マニンガー「ベルリン・フィルが自らキュレーションするアーカイブ・シリーズが、まずフルトヴェングラーで始まる。ベルリン・フィルにはさまざまな記録物があるが、これらを選別し、修復して、歴史的に価値のあるものから優先順位を考えて世に出したい。歴史的素材とどう向き合うかについてはいろいろな考え方がある。傷やノイズを消したほうがいいのかどうか。どちらかといえば、私たちはオリジナル重視の立場で忠実な再現を心がけた」。続いて、山崎浩太郎さんと中川右介さんが対談形式で、この録音の歴史的な背景やその意義、初出の音源などについて、詳細を語ってくれた。たとえば、古い磁気テープで常に問題となるピッチの問題については、当時のベルリン・フィルの438Hz基準でそろえた、等。その場でシュトラウスの「家庭交響曲」から一部が流されたが、なるほど、現代のデジタル編集技術をもってすれば、これくらいなまめかしいサウンドが聴けるのかという驚きがあった。

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