●いよいよ12月も中旬に入って「今年を振り返る」モードがあちこちで発動中。で、CDのセールスはどうだったかなと「HMVクラシック2011年間チャート」を眺めると、やはりというか、ものの見事に上からずらっと激安BOXセットが並んでいる。チェリビダッケ・エディションは4つともトップ10に入っているのかとか、それはそれで興味深いんだけど、新録音でレギュラープライスというと、かろうじてアルゲリッチとアルミンク&新日フィルによるショパン&シューマンのピアノ協奏曲がトップ20に食い込んでいるのみ。過去の名盤と現在の新譜とであまりに1枚あたりの単価が違いすぎるから、同列に並べてもしょうがないんだけど。
●ずっと前からCDの激安BOXセットというのは、ストリーミング型定額制へと移行する過渡的な段階なんだと思っていた。1枚2000円の新譜が旧譜になって1枚1000円になって、それが5枚組2000円になって、10枚組2000円になって……と進むゴールは、聴き放題月額2000円みたいな世界だろう。実際、ある部分ではそうなりつつある。日本国外でのEMIとNMLの関係を見ててもそういった実感はあったんだけど、一方でEMIのレコード部門がユニバーサル傘下に入ることになって、今後どうなるのかはよくわからない。
●もし新譜はCD中心でリリース(コンサート会場で売るから)、旧譜はストリーミング定額制で、という住み分けができた場合、みんな旧譜の名盤で満足してしまい新譜を聴かなくなるんじゃないか、という心配をする人もいる。そうかもしれないけど、むしろ逆なんじゃないかって気もする。旧譜が定額で好きなだけ聴けるようになったら、急に存在感が薄くなり、みんな新譜しか話題にしなくなる。さらに旧譜がパブリック・ドメインになって無料になったら、ますますみんな旧譜を聴かなくなる。それじゃ消費欲が満たされないから。
Discの最近のブログ記事
HMVの年間チャート
ラトル&ベルリン・フィル3Dイン・シンガポール、「日経おとなのOFF」第九入門
●以前に3D映画「ベルリン・フィル3D音楽の旅」をご紹介した。全国各地で順次公開中なのであるが(→上映情報)、さらにBlu-ray Disc「ラトル&ベルリン・フィル3Dイン・シンガポール」がまもなくリリースされる。もちろん、3D映像である(2D再生にも対応している)。3Dで見るためには3D対応専用メガネが必要である。ウチにあったかなあ……あった気がする。いや、でも肝心のBlu-ray対応のDVDプレーヤーを持っていないのだった。ともあれBlu-rayプレーヤーと3D対応専用メガネがあれば、おウチで「飛び出すベルリン・フィル」が見れる(ら抜き)んである。超現実的な臨場感を味わうが吉。
●「日経おとなのOFF」12月号は「第九入門」。いったいこの「第九」特集だけで全部で何十ページあるのか、すごいボリューム。本文はすべてカラー、おまけに付録DVDにティーレマン指揮ウィーン・フィルによる「第九」第4楽章が付いている! さらに綴じ込み付録として、なんと、佐渡裕監修「歓喜の歌」一緒に歌える完全歌詞BOOK! 「ダイネ ツァウベル ビンデン ヴィーデル……」と、ドイツ語歌詞にカナが振ってあり、ポイントごとに佐渡さんのアドバイスが添えられるという親切設計。これで840円の安さとは、なんという別世界。
●この特集、ワタシも少し記事を執筆させていただいたのだが、できあがった掲載誌を手にして全体像を知って感動。記事の作り方が音楽誌とは一味も二味も違っていて、「なるほど、こういう企画の発想があるのか」と、勉強になる。
Pontaゲト
●HMVからPontaカードが届きました。カッコいいHMVのロゴではなく、あえてタヌキがローソンの店員さんの服を着ている柄を選んだ。だってPontaなんだから。大切に扱いたい。
●HMVのサイトにある英グラモフォン賞2011ノミネート・ディスク。こうして眺めると、新譜減ったとか言ってても、一年を振り返れば盛況じゃないのって気もする。近年の受賞盤&ノミネート・ディスクにも遡れるので、じっくり見ると楽しいかも。
●「うぉ、これ、おもしろそう!」と興奮しながらCDをポチろうとするが、一応念のためにと棚を確認してみると、すでにウチにあるではないか、そのCDが。欲しいものが買うまでもなくウチにあったんだから喜んでいい場面なのに、なぜか激しく落胆する。
エンリコ・オノフリ「愛をこめて」
●ようやく聴けた、エンリコ・オノフリがバロック・ヴァイオリンと指揮を務めるニュー・アルバム「愛をこめて」。オノフリが日本人演奏家によるチパンゴ・コンソートを率いる。ゲストに森麻季さん。これ、2009年12月に紀尾井ホールで行なわれたライブのCDなんすよね。ワタシも聴きに行ったんだけど、こうしてCDの形にできあがったアルバムを聴いてびっくり。ライブ録音っていうよりは、このアルバム一枚を作るために録音されたものを聴いてるみたいな完成度の高さ。いたるところに奏者の息づかいがはっきり聞こえて生々しい。演奏会は客席で聴くものだけど、ライブ録音はそうじゃないんすよね。仮想的な舞台上で聴いているというか、あるいは同じスタジオに入っている気になるというか。生より生々しいのが録音。だから自分が聴いた演奏会より、ずっと輪郭のはっきりした音楽を聴いている気になる。最後、拍手が入っているのを聴いて初めて「はっ、これライブだった」って思い出す。
●曲目はコレッリ、ヴィヴァルディ、ヘンデル、モーツァルトなど。冒頭のコレッリの合奏協奏曲第1番が始まる瞬間の豊かさ、みずみずしさに圧倒される。ワタシがこのアルバムでいちばん好きなのは、ヴィヴァルディ「ファルナーチェ」のアリア「すべての血管を凍えるような血が」が終わって、同じくヴィヴァルディ「四季」から「冬」第2楽章&第3楽章へと続くところ。アリア「すべての血管を凍えるような血が」が「冬」の第1楽章に共通する楽想を持っているので、これを第1楽章に見立てて「冬」第2楽章にワープする。この眩暈感。しかもこの「冬」第2楽章が猛烈にカッコいい。「外は荒天だけど、ウチの中は暖炉があって快適で嬉しいぜー!」っていうハッピーなノリ。
冨田勲「惑星 Ultimate Editon」
●冨田勲「惑星」といえばホルストの組曲を原曲としたシンセサイザー音楽における記念碑的名盤(ワタシにとっても思い入れのあるアルバムだ。77年に全米リリースされ250万枚売れた)。その「惑星」が Ultimate Editonとして生まれ変わった。完全リメイク&4.0チャンネルサラウンド化が施され、しかも新曲として、小惑星イトカワと探査機はやぶさに触発された「イトカワとはやぶさ」が追加された。
●で、本日(31日)その完成発表会が羽田空港国際線旅客ターミナルのプラネタリウム・カフェで開かれた(Planetarium Starry Cafeってのがあるんすね)。星空を見上げながら、トミタの「惑星」を聴くという超贅沢な発表会。わざわざ空港に来て飛行機に乗らないのもヘンな感じだなーと思ったが、むしろ宇宙旅行に来たんである。実は一足先に「惑星 Ultimate Editon」のCDは聴かせていただいているのだが(今度新潟FM PORTの番組「クラシックホワイエ」でもご紹介します)、ウチで聴けるのは2チャンネルステレオ。おお、サラウンドだと、こんな風に音源が移動してるんだー、カッコいい! いや、フツーの2チャンネルでも超絶カッコいいが。

●発表会には豪華ゲストが。冨田勲氏に加えて、JAXA「はやぶさ」プロジェクト・マネージャーの川口淳一郎氏(写真左)が登場してクロストーク。冨田氏が親交のあった糸川英夫博士との思い出を語り、糸川英夫博士の孫弟子筋にあたる川口氏がトミタ・サウンドへの感想を語りつつ、「はやぶさ」プロジェクトを回想する。世界のトミタは「はやぶさはあんなに離れた宇宙空間で、ノイズもあるのにちゃんと電波拾って制御できるんだからスゴい。僕なんて温泉場とかにあるアーム操作して景品取るヤツあるでしょ(UFOキャッチャーすね)、あれ使ってもぜんぜん景品取れない。でも孫とか取れるんだよ、練習しなくても。悔しいからこちらは財力で対抗して夜こっそり取れるまでやった」的な話題で笑いをゲット。力の抜け具合がさすがすぎる。世界のトミタは神。
●新曲「イトカワとはやぶさ」のテーマは「夢」であるんだとか。そして糸川英夫博士へのレクエイムでもある、と。この新曲は「木星」と「土星」をつなぐ役割を果たす小曲。ホルスト原曲の「土星」は「老いをもたらす者」なんすよね。いろいろな意味で時の流れも痛切に感じた。いや、でも音楽は古びてないんだけど、というか、音楽だけが古びていない。
「カルロス・クライバー 無への足跡」
●エリック・シュルツによるドキュメンタリー「カルロス・クライバー 無への足跡」がDVDでリリースされる。昨年のクライバー生誕80周年にドイツのServus TVで制作された作品。ワタシは未見なのだが、友人や証言者たちとしてドミンゴ、ファスベンダー、オットー・シェンク、ミヒャエル・ギーレン、マンフレッド・ホーネック、そして実姉のヴェロニカ・クライバーらが出演しているという。収録時間は72分、3月30日発売予定。これは期待せずにはいられない。
●で、ありがたいことに、これがNHK BSプレミアムシアターで放映されるんである。それどころか、ほかにも一緒に1986年のバイエルン国立管弦楽団日本公演とか(!)、クライバー映像を大放出してくれる。放映日は4月2日(土)および4月9日(土)の午後11時30分~午前3時30分。詳細については BSプレミアムシアターのサイトでご確認を。
●ウチはいまだにテレビもHDDレコーダーもアナログで、最近のテレビにやや辟易してることもあって(ニュース番組ですらもう!)、「このままテレビのない生活に突入しちゃおうかなー、せめて次のワールドカップまで」とか夢想してたんだけど、こういうのがあるからテレビは侮れない。やっぱりテレビから引退は無理かも。買うならハードディスク一体型のほうが場所とらなくていいかなあ、小さいのでいいんだけど。
アマゾンmp3がスタート!
●ついに日本でも「Amazon mp3」がスタートした。朗報である。すでにAmazonの海外サイトではかなり前からmp3のダウンロードサービスが始まっていたのだが、それらはみな国内向けサービスであって、日本のクレジットカードでは購入することができなかった。いったいいつになったら日本でのサービスが開始されるのかと鶴首していたんである。
●「すでにiTunesがあるのに、どうしてAmazon mp3が欲しいのか?」と思われるかもしれない。理由はいくつかあるが、最大のものは「iTunesではiTunes Plusと明記された音源以外はDRM(著作権管理機能)付きのファイルが販売されており、これは購入後もPCを買い換えたりするたびにユーザーを悩ます存在なので使いたくない」からだ。DRM付きのファイルにはいろいろな心配が付きまとう。たとえば、配信サービス会社がなくなったり、事業を他社に売却してサービス方針が変わったりしたら、いつかその音源は聴けなくなるんじゃないかという不安がある。が、これは米国ではすでに過去の問題だ。なぜなら本国のiTunes Storeでは2009年1月よりメジャーレーベルを含むすべての音源をDRMなしのiTunes Plusで販売することにしたからだ。
●しかし、日本のiTunes Storeはそうなっていない。クラシックに関しては、EMIとほとんどの独立系レーベルはDRMなしの音源を販売しているが、他のメジャーは変わらずDRM付きのままである。大人の事情があるんでしょうか。
●で、Amazon mp3だ。こちらは名前の通り音源はmp3形式なので、最初からコピー自由で、DRMは付いていない。ユーザーはなんの心配もなく購入できる。すばらしい。ただし、日本のアマゾンmp3のクラシック・コーナーを見たところ、現状ではEMIと独立系レーベルが参加しているのみで、EMI以外のメジャーレーベルの商品が見当たらない。結局、国内事情に関して言えば、iTunes Storeと状況はそう変わっていないんである。音楽のダウンロード販売に関しては、いまだに「国境の壁」というのは相当に高い。
●でもまあ、慌てることはないか。ダウンロード販売がないものはCDで聴けばいいんだから。CDにはCDのよさがあることも確か。いずれにせよ、こういったものは最終的には市場の要請で落ち着くところに落ち着くものと信じている。
●オープンして間もないからなのかどうかはわからないが、バーゲン品もいろいろ取り揃えられているようだ。価格は変動するのでここには書かないけど、フェドセーエフのグラズノフ:交響曲全集とかラトル/ベルリン・フィルのマーラー9番とか。こういうのは眺めているだけでも楽しい。ま、眺めているだけではなかなか済まないんだが。
「カルロス・クライバー ある天才指揮者の伝記」(下)
●読了、「カルロス・クライバー ある天才指揮者の伝記」下巻(アレクサンダー・ヴェルナー著/音楽之友社)。最後のページを閉じて、しみじみ。なんという生涯なんだろう、これは。これほど才能に恵まれ、これほど自分で自分に課したプレッシャーに耐えられなかった音楽家がほかにいるだろうか。そして、その後半生は(ページは厚いけど)あまりにも短い。上巻でクライバーはトップクラスの指揮者に仲間入りを果たそうとする。そして下巻ではミラノで、ロンドンで、ミュンヘンで、指揮者としての頂点に立つ……が、そこから半引退状態に至るまでがなんだかやたらと早く感じた。いや、実際早かったんだが。
●上巻と下巻、どっちもおもしろかったが、ワタシはより下巻のほうが楽しめた。知らないことがたくさん書いてあるのは上巻。でも下巻のほうが「あ、あれはそういうことだったのか……」とか生々しく感じられることが多くて、つい慌ててページをめくってしまう。少し前にデアゴスティーニから廉価再発売されたウィーンでの伝説的な「カルメン」、あれがテレビ収録されたのがどんなに幸運なことだったのか。「トリスタンとイゾルデ」のすばらしい録音が実現したのも奇跡だ。前奏曲を録音しただけでクライバーは「録音から降りたい」といって楽屋に閉じこもったというのだから(練習を欠席していたペーター・ダムが録音に現れたとき、クライバーがイジワルに追い払う場面もすごい)。
●でも実現しなかったほうも強烈だ。EMIによるベルクの「ヴォツェック」スタジオ録音。大変な手間と費用をかけて、父エーリヒが使用したパート譜を用意し、歌手と契約を済ませ、録音予定も確保していたのに、いざ録音しようというところでクライバーは説明なしに去った。ワタシがEMIの担当者だったら発狂する。ていうか、今だったら「ヴォツェック」のCDを録音するために、そんな膨大なリソースを投入してリスクを取るということがもはやありえないわけで、こういったエピソードはもう神話時代の物語に思えてくる。
●それからクライバー指揮ベルリン・フィル(!)のドヴォルザーク「新世界より」の演奏会およびその録音(EMI)と映像収録。これもクライバーのあらゆる要求を受け入れて実現直前までたどり着いたが、プローベの段階で楽譜の準備が不十分だったという理由で、クライバーは突然降板した。
●クライバー指揮ウィーン・フィルのR・シュトラウス「英雄の生涯」。あったねえ、そんな幻の録音が。ソニークラシカルからリリースされると発表までされていたのにお蔵入りになった。クライバーがOKといったのに、ヴァイオリン・ソロを弾いたキュッヒルがノーと言った。で、手直ししたものをキュッヒルがOKしたら、今度はクライバーがノーと言った……。ああ、ため息しか出ない。
●ほかにも当時リアルタイムで耳にしていたいろいろな話の詳細が載っている。お忍びで日本に旅行したときのこととか、日本から帰る飛行機の機内でばったりチェリビダッケと鉢合わせしたときの話とか、カナリア諸島での演奏会だとか……。懐かしいエピソード。
●著者アレクサンダー・ヴェルナーの取材力ははんぱじゃない。驚嘆。しかも抑えた筆致で書く。それでいて物語性豊かな評伝になっている。うますぎる。