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January 7, 2019

映画「シュガー・ラッシュ:オンライン」(リッチ・ムーア、フィル・ジョンストン監督)

●ディズニー・アニメーション最新作、映画「シュガー・ラッシュ:オンライン」を観た。シリーズ前作は未見なのだが、今作から伝わる範囲であらすじを紹介すると、ふたりの主人公はゲーセンにある昔ながらのアーケードゲームのキャラクター。ラルフは不器用だけど純真な悪役キャラ。いいヤツで、変わることのない今を愛する、古き良きゲームの世界の住人だ。一方、利発で好奇心旺盛な女の子ヴァネロペは、変化のない世界に飽き飽きしている。大親友であるふたりはひょんなことから未知の世界であるインターネットに出会う。ヴァネロペはこの広大で刺激的な世界に自分の居場所を見出す。しかしラルフは元の世界に帰ることしか考えられない。ふたりの友情の行方は……。過去の名作ゲームや映画、インターネット・カルチャーへのオマージュやパロディをふんだんに盛り込みつつも、大人も子供も安心して楽しめる上質なディズニー・アニメに仕上がっている。
●最近のディズニー映画は自分の見た限り、毎回、同じことを言っている。すなわち、女の子も自分の人生を生きるべきだ、ということ。運命とは白馬の王子様が与えてくれるものではなく、自分で切り開くべきもの。ディズニーは従来の待っているだけのプリンセス像を大急ぎでアップデイトしている最中だ。これはとても心強く、頼もしいこと。ファミリー映画はかくあるべしと思うのだが、結果的にどの映画を見ても(スター・ウォーズ・シリーズですら)似たような手触りが残る。それがディズニー映画だといえばそれまでなのだが……。さらにここではラルフを通して、男の子にも正しい振るまい方を教えてくれる。いくら大好きだからといって女の子を束縛しようとしてはいけない、彼女自身の道を歩ませるだけの勇気を持て、と。
●これが毎度おなじみとなった大きなテーマ。それに重ねて描かれるもう少し狭いテーマとしては、新旧のゲームカルチャーの対比がある。ヴァネロペが向かったのは、開かれたオンラインのゲーム。こちらが今のあり方だ。一方、ラルフはかつてのスタンドアローンの世界に留まる。これは古い世界だが、必ずしも否定的なニュアンスでは描かれていない。スタンドアローンだからこそ可能な反復の快楽や様式美みたいなものがあって、それがゲームのエッセンスのひとつであるはず。ホットなゲームの世界がネット側からリトワクさんのゲーセン側に帰ってくることだって、ないとはいえない。そもそも映画という娯楽自体が、どちらかといえば昔ながらのスタンドアローンの世界にあるんだし。
●動画投稿サイトの人気者になったラルフが、「コメント欄」をうっかり目にして、自分への悪口雑言に傷つくシーンは秀逸。イエスが言うように、人のダークサイドがむき出しになりがちな「コメント欄は見ちゃダメ」。今のディズニーアニメはそんな真実まで教えてくれる。