February 5, 2019

キット・アームストロング ピアノ・リサイタル

●4日は浜離宮朝日ホールでキット・アームストロングのピアノ・リサイタル。今まで機会を逸していたけど、ようやくこの人の実演を聴くことができた。1992年、ロサンジェルス生まれ。プロフィールを見ると、カーティス音楽院とロンドンの王立音楽院で学び、ブレンデルに師事、そのかたわらカリフォルニア州立大で物理学、ペンシルヴェニア大学で化学と数学、インペリアル・カレッジ・ロンドンで数学を学び、パリ第6大学で数学の修士号を得たという。なんだかもう、人生の密度が凡人と違いすぎる。実年齢も十分若いが、アジア系童顔で気取らない髪型のせいもあってか年齢以上に若く見える。
●プログラムはとても意欲的。前半にクープランのクラヴサン曲集第2巻第8組曲からパッサカリア ロ短調、バッハのトリオ・ソナタ第3番ニ短調BWV527、フォーレの9つの前奏曲 Op.103、後半にバードの「ウォルシンガム」「セリンジャーのラウンド」「鐘」、リストのバッハの動機による変奏曲S180。パッサカリア様音楽でサンドイッチされた変奏たっぷりプログラム。クープラン、バッハ、バードのバロック曲はモダン・ピアノの表現力を前提とした演奏スタイルで、ペダルもフル活用、ダイナミクスの幅もしっかりとる。たとえばクープランではクライマックスに向けて息の長い長大なクレッシェンドで頂点を築き、その後は弱音主体で鎮静するといったように。バードは「セリンジャーのラウンド」でうんとはじけて痛快。逆にロマン派の曲ではやや抑制的。フォーレの前奏曲集でまるまる9曲というのはかなり渋い。白眉は最後のリストで、身振りの大きさに頼らない、思索的なモノローグの音楽。音色のコントロールも巧緻。アンコールを弾く前にピアノのG#の音が歪んでいたことについてひとこと釈明があって、バッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻から前奏曲ハ長調。ハーモニーの海をたゆたうような流麗なソフトフォーカスのバッハ。続くアンコールでは、なんと調律師とともに登場し、その場で音を直して、バッハのコラール「主なる神よ、われを憐れみたまえ」BWV 721。終演後のサイン会は長蛇の列だった模様。

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