February 14, 2019

テオドール・クルレンツィス指揮ムジカエテルナのチャイコフスキー

●13日はサントリーホールでテオドール・クルレンツィス指揮ムジカエテルナ。東京ではオール・チャイコフスキーで3プログラム3公演がすべて異なるホールで開催されたが、ウワサのコンビが待望の初来日とあって全公演チケット完売。ようやく最終日に一公演だけ聴けた。驚きに満ちた演奏会。
●プログラムからして意表をついている。チャイコフスキーとはいっても、前半に組曲第3番ト長調、後半に幻想序曲「ロメオとジュリエット」、幻想曲「フランチェスコ・ダ・リミニ」という3曲(後半は当初の予定から曲順を入れ替え)。ムジカエテルナはどうやらチェロ以外は立奏のよう。管楽器は椅子があるので休みの間に座ることもできるが、弦楽器は椅子すらない。バロック・アンサンブルならどうということもないわけだが、シンフォニーオーケストラでみんな立っている光景は壮観。クルレンツィスは長身痩躯、棒を持たずにしなやかな身のこなし。ムジカエテルナはスーパーオーケストラではないかもしれないが、ひとつの解釈を実現するという点で鍛え抜かれている。通常のオーケストラでは不可能なくらい、たっぷりとリハーサルを重ねてきたといった様子。意外性のあるダイナミクスやテンポ設定など、次々となにかイベントが起き続ける。この日、18時30分の開場を迎えても、ロビー開場のみで客席に入れなかったのだが、直前まで練習をしていたのだろうか。
●前半の組曲第3番。これは渋すぎる選曲だとは思ったが、最後の長い変奏曲で独奏ヴァイオリンが大活躍する。コンサートマスターが生き生きとソロを披露して、最後は盛り上がって終了。そしてこの日最大のサプライズが訪れる。前半なのに、なぜかアンコールが始まった。曲はチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の第3楽章。勢いよくドカンッ!と始まったが、ソリストはどこに?……そう!コンサートマスターがそのままソロを弾いたんである! な、なんじゃこりゃーっ! 別日のプログラムではコパチンスカヤがこの曲のソリストを務めていたのだが、まさかのコンサートマスターのサプライズ抜擢。客席のどよめきを喜んでいるかのような、ノリノリのソロ。協奏曲なのにみんなが名前を知らない人が弾いているという、まさかの事態が出来(後でアンコールの掲示でアイレン・プリッチンという人だと知る)。もちろん、曲が終わったら場内は大喝采。これは伝説だ。一回限りの伝説的反則技。しかもコンサートマスター氏、さらにソリスト・アンコールまで弾いてくれた。イザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番の第1楽章(オブセッション)。コンサートマスターによる華麗なる「アンコールのアンコール」。どんな演奏会だ、これ。
●後半のダブル幻想曲、どちらも精力的な演奏で、並の演奏にはない張りつめたテンションがあったけど、よりおもしろみを感じたのは「フランチェスコ・ダ・リミニ」のほう。熱風を浴びるかのよう。後半が始まった時点で20時40分くらいになっていたので、さすがにこれ以上のアンコールはなく、終演は21時半くらい。客席の反応は熱狂的だったけど、遅くなったこともあってか終わるやいなや席を立つ人もちらほら。アクの強い音楽ではある。
●前日に行われた来日記念トークセッションで(ネット中継があった)、クルレンツィスは「みんなといっしょに修道院で朝日とともに練習を始めたい、そしてわれわれの音楽を聴いてほしい人だけに聴いてもらいたい」みたいなことを語っていたっけ。「メインストリームと別の世界を切り開いていきたい」とも。指揮者とオーケストラの関係という点でも、このコンビはどれだけ持続可能で、どこに行く着くのだろうか。解釈の徹底と演奏の一回性の均衡点みたいなことについても、つい思いを巡らせる。

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