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February 28, 2019

映画「ファースト・マン」(デイミアン・チャゼル監督)

●「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼル監督と主演のライアン・ゴズリングがふたたびタッグを組んだというのに、周囲ではぜんぜん話題になっていない映画「ファースト・マン」。先日公開されたと思ったら、あっという間に上映映画館の数が減ってきているので慌てて見た。
●「ファースト・マン」とは、人類初の月に立った宇宙飛行士ニール・アームストロングのこと。ニールが宇宙飛行士に志願し、月に到達するまでが実話をもとに描かれる。というか、かなり細かいところまで実話っぽい。月着陸船イーグルが月に向かって降下する最中に、エラーコード1202みたいなのが2度も出て、そのたびにヒューストンから問題ないのでそのまま続行するように指示を受ける場面があったけど、あれも実話通りなんだとか(計算機の実行オーバーフローだったらしい)。映画は基本的にニール視点で描かれている。話が進むにつれて、だんだん寡黙で何を考えているかわからない人間になっていく描写が秀逸。この種の映画にありがちな「苦労が実って栄光を手に入れる」という定型に押し込まれておらず、ずっと暗めのトーンで進むところにリアリティがある。
●アポロ計画に対する冷淡な世論も描かれていて、なんと、カート・ヴォネガットがテレビ番組らしきものに出てきて「月なんかに税金をつぎ込むより、ニューヨークを人に住めるところにしよう」なんてことをしゃべっている。これは当時の本物の映像なんだろう。なんの役に立つかわからない宇宙開発より、目の前の貧困をどうにしかしろといった声も上がる。過去の勝利とみなされている話を負の面の含めてありのままに描き直したら暗いトーンの話になったという映画でもあって、あんまり評判にならないのもまあわかる。傑作。