April 17, 2019

METライブビューイング ドニゼッティ「連隊の娘」

●15日は東劇のMETライブビューイングでドニゼッティ「連隊の娘」。他愛のないラブコメを本当に笑える作品にするためには、最高度の歌唱と真に遊び心にあふれた演出が必要なことを雄弁に語った舞台だった。
●演出はロラン・ペリー。あちこちに付いているおかしな振り付けがナンセンス風味でかなり楽しい。この演出はだいぶ前にやはりMETライブビューイングで見た。前回はマリーにナタリー・デセイ、トニオにファン・ディエゴ・フローレスというコンビだったが、今回はマリーをプレティ(プリティ)・イェンデ、トニオをハヴィエル・カマレナという新世代のスターが歌う。このふたりが驚異的。プレティ・イェンデは歌も演技も文句なしにすばらしい稀有なヒロイン。南アフリカ出身。鍛えられた体格を生かした役作りで、なるほど軍隊で育てられた娘という役柄に説得力がある。歌の技術だけでも十分にすごいのに、コメディをきちんと演じられる歌手は真に貴重。カマレナはハイCを連発してほとんどアスリート的な爽快さ。場内喝采が止まずに、METでは異例のアンコールがあった。もっとも進行役から事前に「アンコールがあるかも」とアナウンスがあったので、予定調和的な熱狂とも感じてしまうのだが。声に張りがあってパワフル。ただ演技のほうはコメディ向きかいうとどうだろうか。他にシュルピスにマウリツィオ・ムラーロ、ベルケンフィールド公爵夫人にステファニー・ブライズ、指揮はエンリケ・マッツォーラ。
●男たちばかりの軍隊で赤ん坊を拾い、みんながパパとなって、その子を連隊の娘として育てる。そんなすっとぼけたおっさんたちの都合のよいファンタジー。軍隊生活を陽気に賛美する19世紀にしか成立しないコメディでもあり、正直なところいろいろとモヤモヤする作品なのだが、まあ戦国時代の大河ドラマだって似たようなもの。コメディなんだから素直に笑うべきなんだろう。メトの観客席はこれまでこのライブビューイングで見たなかで最高の興奮度。

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