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May 20, 2019

アレクサンドル・ラザレフ指揮日本フィルの「カヴァレリア・ルスティカーナ」

●17日はサントリーホールでアレクサンドル・ラザレフ指揮日本フィル。前半にメトネルのピアノ協奏曲第2番ハ短調(エフゲニー・スドビン)、後半にマスカーニのオペラ「カヴァレリア・ルスティカーナ」(演奏会形式)という、まったく普通ではない組合せのプログラム。メトネルは初めて聴いたが、自分はうまく音楽的な文脈を追えず迷子になってしまった。しかしこの長大で、難度の高そうな曲をスドビンはすっかり手の内に入れているよう。脱帽するしか。アンコールのスカルラッティはみずみずしく、情感豊か。
●で、後半は一気に雰囲気が変わってマスカーニ。オーケストラ、独唱陣、合唱団が一体となって熱気にあふれた好演に。けっこうな人数の日本フィルハーモニー協会合唱団がステージ上に乗って、ほとんど隙間なし。演技の余地もない本当の演奏会形式だったが、十分に雄弁なドラマが紡ぎ出された。オーケストラの壮大な響きを真正面から体感できるのが演奏会形式の魅力。おかげでこの曲にはピッコロがふたりもいることに気づく。つんざくような高音が強調される。歌手陣は声量豊かで、まったくオーケストラに埋もれない。トゥリッドゥにニコライ・イェロヒン、サントゥッツァに清水華澄、アルフィオに上江隼人、ローラに富岡明子、ルチアに石井藍。
●「カヴァレリア・ルスティカーナ」は一幕物にぴったりの話だと改めて思う。説明的な場面、つなぎの場面がほとんどなく、オペラでは珍しくキビキビと話が進み、核心だけで成り立っている。で、この話で自分がいちばんぐっと来るのは、決闘を前にしたトゥリッドゥが酒に酔った体裁で、母親にそれとなく別れを告げるところ。トゥリッドゥの破滅は自業自得ではあるんだけど、その背景にはいろんな社会環境もあるだろうからと、トゥリッドゥに同情して見ていた。でも、この日の配役だと、トゥリッドゥのほうが強そう。演奏会形式ゆえに衣装や演技で役を作れないから体格だけで見てしまうわけで、これだとトゥリッドゥは決闘で勝つんじゃないの、と思う。ホントは勝つ気マンマンだったのに、番狂わせで負けた。そう思うとトゥリッドゥよりもアルフィオに共感したくなる。アルフィオ側から見れば悪人を成敗したわけで、「スター・ウォーズ」にたとえると(なんでだよ)、フォースの暗黒面に落ちたトゥリッドゥをジェダイのアルフィオが倒した、という結末。