July 16, 2019

オペラ夏の祭典「トゥーランドット」

●12日、東京文化会館で、オペラ夏の祭典2019-20 Japan ↔ Tokyo ↔ World「トゥーランドット」。大野和士の総合プロデュースのもと、東京文化会館と新国立劇場が初めて共同制作を行うという2年にわたるプロジェクト。今年がプッチーニの「トゥーランドット」、来年がワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」。この日が初日。本日時点で東京文化会館での3公演が終わり、これから新国立劇場で4公演、さらにびわ湖、札幌でも上演される。ダブルキャストで豪華歌手陣をそろえ、ピットにはなんと、大野和士が音楽監督を務めるバルセロナ交響楽団が入るという豪勢さ。演出はアレックス・オリエ。JR上野駅に着くとベルが「だれも寝てはならぬ」になっていて、駅の構内から雰囲気を盛りあげてくれる。
●どうやら意欲的な演出が披露されるらしいということで、事前にネタバレしないように情報を遮断して当日に臨んだ。ゲネプロを取材してそうな人、関係者の方々に幕間で会うたびに「どんな演出かまったく知らずに見てるので、ヒントもなにも言わないでください」と宣言しておく。でないと、ネタを当然知ってる前提で話しかけられたりするので。
●まず、音楽面については大変な充実ぶりで、すべてが高水準。なによりも聴きごたえがあったのは合唱(新国立劇場合唱団、藤原歌劇団合唱部、びわ湖ホール声楽アンサンブル)。このオペラの真の主役は合唱なんじゃないかと思うくらい、ドラマの進行の原動力となっていた。独唱陣でもっとも印象的だったのはリューの中村恵理。リューという役はこれまで自分にとって「オペラ三大イヤな女」のひとりで、見るたびに「そんな一方的な思い込みで勝手に死ぬなよっ!」と苦々しく思っていたのだが、初めてこの役に共感を覚えることができた。役柄と歌唱が同期している感、大。イレーネ・テオリンのトゥーランドットとテオドール・イリンカイのカラフも力強く、「命がけの謎々大会」に迫真性をもたらすことができる稀有なコンビ。バルセロナ交響楽団の音色は豊麗で、スペクタクルを堪能させてくれた。もともと「トゥーランドット」は耳で愉しむオペラという面が強いと思っているので(結末に合理性がないから)、本来ならこれだけでも大成功だったのかもしれない。
●が、アレックス・オリエの演出は賛否両論があるはず。最大の問題はラストシーン。まだ公演が続くので具体的には伏せるけど、「筋は通っているはずなのに説得力がない」というのが率直な感想。なるほど、理屈の上ではそうであっていいはずなんだけど、取ってつけたような印象が否めず。伏線が足りないんだろうか。あるいは音楽と起きている出来事に齟齬があるのが問題なのか。このオペラ、もともと話に無理があるのはたしかで、カラフがトゥーランドットを打ち破った、そしてリューが自己犠牲による愛を示した、そこでなぜトゥーランドットがカラフに対して真実の愛に目覚めるのかがさっぱりわからない。仮にリューの姿に愛の尊さを知ったとしても、カラフを愛する理由がない。カラフはトゥーランドットを一目見ただけであり、たんに失った権力の座に惹かれているだけの男。だから、演出家がいうように、このオペラはほかのプッチーニ作品と同様、ハッピーエンドで終わるはずがないっていうのはよくわかる。実際、通常の演出のようにふたりがめでたく結ばれたとしても、翌日から夫婦間で権力争いが起きることは目に見えている。だからそのあたりをなにかで暗示するのかな……と予想していたら、違ってた。
●舞台はずっと暗い。ゼッフィレッリ的な豪華絢爛さとは対照的で、この演出における北京にはいっさいの富が感じられない。強権的なディストピアがあるのみ。演出家は「ブレードランナー」に触発されたようなことを言っているが、あちらのアジア的近未来都市の混沌とも遠く、むしろ力が支配する「北斗の拳」の世界だと理解した。第1幕、処刑を見るために集まった民衆に対して、武装した覆面の兵士たちがずっと暴力をふるっているのだが、なぜ単なる野次馬たちを痛めつける必要があるのだろう。だって、なにも反抗していない弱者なんすよ……というあたりが「北斗の拳」。となるとケンシロウが決めゼリフで「お前はもう死んでいる」って言わなきゃいけないわけで、そうなるとケンシロウはだれなのか、カラフなのか、トゥーランドットなのか、というのが問題かなと(なんだそりゃ)。
●そのほかのメモ。冒頭にあった寸劇は、作品中で歌われる先祖のロウ・リン姫を描いているということでいいんだろうか。処刑後、背負い式のバキュームクリーナーで床の清掃をしている人がいる。充電式なんだろうか。舞台は水平方向よりも垂直方向に広がっている。権力の明示化なのか。なにかと位置エネルギー高めの舞台装置ではらはらする。

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