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January 30, 2020

エサ=ペッカ・サロネン指揮フィルハーモニア管弦楽団のサロネン&マーラー

●29日はふたたび東京芸術劇場でエサ=ペッカ・サロネン指揮フィルハーモニア管弦楽団。プログラムはサロネンの自作「ジェミニ」とマーラーの交響曲第9番。当初は休憩なしで両曲が続けて演奏されると発表されていたが、予定を変更して休憩ありに。「ジェミニ」はそう短い曲ではないので、ありがたし。もともとはサロネンが自作「ポルックス」を指揮することになっていたのが、2019年10月にLAフィルで初演された新作「カストール」を追加した連作「ジェミニ」として演奏されることになった。カストールとポルックス、といえばラモーを思い出すが、ふたご座(ジェミニ)をなす星。先に演奏されたのは「ポルックス」で、カラフルなオーケストレーションで波打つ海のような響きが作られる。ラヴェルの「ダフニスとクロエ」を思わす官能性も。打楽器セクションのなかに和太鼓が入っているのが目を引く。後半の「カストール」は活発な音楽で、打楽器の執拗なパルスを伴って力強いフィナーレを築く。マーラーの3番のフィナーレを連想。
●後半のマーラーの交響曲第9番は、これまでに聴いた同コンビの演奏では最高度に練り上げられた名演だったと思う。多かれ少なかれ「彼岸の音楽」になりがちなこの曲を、キレッキレの造形と輝かしいサウンドで再現し、ほとんど晴れやかと言っていいほど。生を謳歌するマーラー9。こういうアプローチだと中間楽章により笑いの要素を感じることができる。終楽章はどう聴いても告別の音楽には違いないんだけど、それでもこのコンビが奏でると冒頭は安らかな喜びの音楽であり、最後に残るのは心地よい追憶の手触り。曲が終わったあと、客席に訪れた沈黙はかつてないほどの深さ。この曲やチャイコフスキーの「悲愴」などでは余韻を味わうために間を取られることは珍しくないが、ここまで完璧な静寂が保たれるとは。長い沈黙の後は一転して盛大な喝采、立ち上がるお客さんも多数。芸劇のお客さんはほかの主要ホールより少し若い印象があるんだけど、そのせいもあってか客席の反応が鋭敏な気がする。
●サロネンは長々とカーテンコールをくりかえさないので、さっさとコンサートマスターを連れ立って解散。客席の拍手はまったくおとろえず、指揮者のカーテンコールがあるわけだが、なんと、ソロ・カーテンコールが3回もあった。これも稀有なこと。サロネンは20/21シーズンを最後にフィルハーモニア管弦楽団を退任するので、ひとつの区切りでもある。
●なにが信じられないってサロネンが61歳という事実。風貌もさることながら、腕の動きのシャープさとか身のこなしの軽さが尋常じゃない。あれはどうなってるんすかね。