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September 30, 2020

北村朋幹 東京オペラシティ B→C バッハからコンテンポラリーへ 224

●29日は東京オペラシティのリサイタルホールでB→C、北村朋幹のリサイタル。なんと4台の鍵盤楽器を用いるという、練りに練ったプログラム。舞台上には下手にピアノ、上手にプリペアドピアノ、中央手前にトイピアノ、中央奥にチェンバロが並べられている。演奏されるのはケージ、バッハ、マーク・アンドレ、武満徹、藤倉大の作品。柱になっているのはケージの「プリペアド・ピアノのためのソナタとインターリュード」なのだが、これを4つに分けて、前後にほかの作品を並べるという構成。順にケージのトイピアノのための組曲、「ソナタとインターリュード」ソナタ第1~4番と第1インターリュード、バッハの「前奏曲、フーガとアレグロ」変ホ長調BWV998(チェンバロ)、「ソナタとインターリュード」ソナタ第5~8番と第2インターリュード、休憩をはさんで、マーク・アンドレの iv 11b、「ソナタとインターリュード」第3インターリュードとソナタ第9~12番、バッハ~高橋悠治編「主よあわれみ給え」BWV244(ピアノ)、武満徹の「夢みる雨」(チェンバロ)、藤倉大の milliampere(トイピアノ) 、「ソナタとインターリュード」第4インターリュードとソナタ第13~16番。
●北村さんのリサイタルはいつも全体がひとつの作品のようになっているのだが、今回はとりわけ巧緻。プログラムだけでお腹が半分満たされるくらい。実はコンテンポラリーなのは短いアンドレ作品と藤倉作品だけで、中心となるケージが1940年代の作品。BtoCというよりBach to Cageというか。ケージによるピアノのプリパレーションと並列的にトイピアノやチェンバロを眺めるおもしろさがある。しかも唯一の純ピアノ作品といえるアンドレの iv 11b は、3種類のペダルを操作しながら手で楽器本体を叩いて弦を共振させるといった曲で、通常の楽音を発しない。唯一、ピアノを普通に弾いているのが高橋悠治編のバッハ。全体のなかでここだけが強烈なドラマ性によって浮き彫りになって見える。コンセプトは尖がっているが、全体の手触りとして感じたのは、むしろ角のとれたしなやかさ。ケージの「ソナタとインターリュード」には歌謡性すら感じる、ほとんどシューベルトばりの。
●アンコールはなし。終演は21時20分くらい。久しぶりに夜が遅くなった。ウイルス禍以前と比べて、体感的に1時間以上夜が遅く感じてしまうので、すっかり深夜の気分。