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December 10, 2020

「夏の夜の夢」の「取り替え子」とスタージョン

●ブリテンのオペラ「夏の夜の夢」が10月に新国立劇場でも上演されたけど、あらためてこれってわかりづらい話だなと思った。説明してもらわないとピンと来ない要素がたくさんあるというか。そのひとつが、タイタニアとオベロンの夫婦喧嘩の原因となっているインドの小姓。ここでいうインドは現代のインドではなく、欧州より遠くの異国くらいのイメージなのだと思うが、原作の設定上、この子は「取り替え子」(チェンジリング)の片割れということになっている。つまり、妖精が人間の子を奪い、身代わりとして醜かったり発育不全だったりする子供を置いていく。妖精の側には健やかで美しい子がいて、夫婦で奪い合いになっている。人間の側では「この子は実は取り替え子で、本物のわが子は連れ去られたのだ」という物騒な解釈が可能になるわけで、伝承のなかには取り替え子を火にくべるとその正体がわかるみたいな怖い話も多々あるようだ。
●で、たまたま今シオドア・スタージョンの短篇集「輝く断片」(河出文庫)を読んでいるのだが、その冒頭に置かれているのが「取り替え子」というユーモラスな作品。人間側に残される取り替え子の赤ん坊が登場するのだが、赤ん坊の中身は口が悪ければ性格も悪いというオッサン。ベビーフードが大嫌いで、好物はレアのステーキ。そしてなぜか本名がパーシヴァル。この話では、取り替え子が女性から真の愛情を注がれると本物の人間の子供になる、という設定になっている。じゃあ、もし取り替え子が本物の子供に変わった場合、妖精の側にいる片割れはどうなるんでしょ?