amazon
January 5, 2021

「ピアニストを生きる――清水和音の思想」(清水和音、青澤隆明/音楽之友社)

●音楽家ひとりのインタビューで一冊の本が成立することはまれ。本一冊分、他人の興味を引くこと語るのは至難の業だと思うが、それをできる数少ないピアニストが清水和音なんだと思う。ずっと前からそうだけど、こんなに率直に語る音楽家もいないと「ピアニストを生きる――清水和音の思想」(清水和音著、青澤隆明編著/音楽之友社)を読んで改めて思った。
●次々と目をひく言葉が飛び込んでくる。「他人の言うことはなにも聞きたくない」「(高校生の頃)ピアノを弾くのは一か月に一時間くらい」「コンクールに1位になったからって、べつにうまいわけじゃない」「自分が才能あるということに疑いはなかった」「(本番で弾くたびに)自分はほんとうにたいしたことないなと思う」。ロン・ティボー国際コンクールで優勝して一大センセーションを巻き起こすが、あまりに練習してなくて弾ける曲がないのに、自惚れだけは強くてなんでも仕事を引き受けたら年間80公演以上弾くことになって「仕事ぎらいになった」。コンクールで弾いたショパンの2番以外、協奏曲はなにも弾いたことがないまま、一年目で十数曲の協奏曲を弾いたというからすごい話。かつてアイドル的な人気を呼んだ清水和音も今や還暦。語り口としては一貫して逆説の人でありながら、音楽への向き合い方がまっすぐなところが、この本のおもしろさなんだと思う。作品に対して我を出すことを嫌う一方で、作曲家の自作自演はみんなつまらないという話も目からウロコ。