January 14, 2021

ベルリン・フィルDCHの室内楽公演「クローズアップ・ベートーヴェン」

●ベルリン・フィルのデジタル・コンサート・ホール(DCH)で配信されている室内楽公演「クローズアップ・ベートーヴェン」をいくつか観た。これは昨年末12月14日から17日まで、ベートーヴェンの生誕250年を祝って弦楽四重奏曲全曲および管楽器を含む室内楽作品を一挙に演奏した特別企画。この中から、初期弦楽四重奏曲の一部と、中期から後期の弦楽四重奏曲の回をつらつらと聴き進めてきたのだが、ベルリン・フィルってホントにスゴいなと改めて驚嘆。全16曲の弦楽四重奏曲(および大フーガ)で、ぜんぶメンバーが違うんすよ。首席奏者だけじゃなくて、いろんな人が出てくる。普段のオーケストラ公演では集団のひとりとしてしか認識されない奏者たちの「個」にスポットライトが当たる。これがもう、みんな上手いんだ。わかっちゃいるけど、ベルリン・フィルがどれほどのタレント集団なのか、見せつけられた気分。というか、並のオーケストラ公演よりもよほどエキサイティングかも。
●最初に一曲聴いたときは、「あ、弦楽四重奏でもやっぱりベルリン・フィルっぽい音がする」と思ったんだけど、何曲も聴いていると4人の組合せ次第でずいぶん違ったキャラクターのベートーヴェンが生まれてくるのを感じる。大まかにいえば、獰猛さと精緻さの両極でそれぞれ振れ幅が違うというか。特に中期から後期は、神レベルの傑作がそろうだけあって、聴きごたえ満点。ラズモフスキー第1番や第3番、「セリオーソ」、大フーガ、第14番、第15番など、堪能。第15番は特に印象的で、第1ヴァイオリンはシモン・ロテュリエ。オーケストラでは第2ヴァイオリンの一員だけど、しなやかで玄妙な趣で異彩を放っていた。第3楽章の真摯な祈りの音楽は鳥肌もの。それにしても指揮者を呼ばなくても、これだけのシリーズを自前で作れてしまうオーケストラって。
●現在ロンドン交響楽団の音楽監督を務めるサイモン・ラトルが2023年からバイエルン放送交響楽団の首席指揮者に就任すると発表。ラトルがベルリン・フィルを離れるとき、記者会見で「家族はベルリンに留まるので、ロンドンに行ってもベルリンは自分の街であり続ける」みたいなことを話していたと思うが、ロンドンの次にミュンヘンに行く展開があるとは。イギリスのEU離脱やロンドンのコンサートホール建設問題など、いろんな憶測を呼ぶが、ベルリン・フィルの先に指揮者のキャリアがまだまだ続くということが感慨深い。ベルリン・フィルのドキュメンタリーで、去り際のラトルが「このオーケストラでは、指揮者は公の場で処刑される。でもそれがいい。今ではそのよさがわかる」と語っていたのを思い出す。

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