amazon
March 30, 2021

「反省記」(西和彦著/ダイヤモンド社)

●これは抜群におもしろい。西和彦著「反省記」(ダイヤモンド社)。草創期のマイクロソフトに押しかけてビル・ゲイツと意気投合し、マイクロソフトの中核メンバーとして副社長まで務めるものの、結局ビル・ゲイツと対立して退社、アスキーの社長になり史上最年少で上場させるが、その後、資金難に苦しみ、最後は自分で作った会社を追い出される。その半生を振り返る半生記ならぬ反省記。かつて月刊「アスキー」をワクワクしながら読んだ身としては、驚きの連続。
●主にパソコンの世界の話だが、パソコン雑誌「アスキー」創刊のくだりは出版業界の話でもある。出版業界は新規参入者にすごく厳しい業界で、本を作るのはどんな会社でもできるが、それを書店に流通させるのは至難の業。で、創刊したばかりの「アスキー」もやっぱり本を書店に置いてもらえない。パソコン雑誌が求められていた時代、置けば絶対に売れるとわかっていても、流通に乗らなければどうしようもない。著者たちは車に「アスキー」を積んで直接書店に行商に行く。当然、書店は「そんなの置けないよ」というに決まっている(普通、本とは取次を通して仕入れるものなので)。そこで、著者たちは二人組で秋葉原などの書店を回り、ひとりが「アスキー」を売り込む。で、断られると、トイレを貸してほしいと言って、雑誌の束をポンと置いてトイレに消える。そのタイミングでもうひとりが客のふりをして雑誌をしばらく立ち読みして、さっとレジに持っていく、という作戦。これは書店員さんへのインパクトは抜群だろう。トイレから戻ってくると、書店員さんが今一冊売れてしまったから清算しなきゃという話になって、取引が始まる。実際に置いてもらえさえすれば確実に売れる本だったから、そんな作戦が通用したのだと思うが、かなり愉快な話。