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May 21, 2021

上野deクラシック Vol.56 田原綾子&實川風

●20日夜は東京文化会館小ホールで、東京音楽コンクール入賞者によるシリーズ「上野deクラシック」Vol.56。第11回東京音楽コンクール弦楽部門第1位の田原綾子(ヴィオラ)と實川風(ピアノ)が共演。今聴きたいふたりで、なおかつプログラムが強力。ショスタコーヴィチのヴィオラ・ソナタとラフマニノフのチェロ・ソナタ(ヴィオラ版)。休憩なしの短時間公演とするにはかなり濃密で重厚。ロシア出身の作曲家たちによるソナタが並ぶが、ショスタコーヴィチ作品は作曲者が世を去る直前に絞り出した告別の音楽、ラフマニノフ作品はピアノ協奏曲第2番に続く20代充実期の音楽と、創作の背景は対照的。ショスタコーヴィチのヴィオラ・ソナタは当初チェロ・ソナタとして構想されたという話もあるので、その点でもラフマニノフのチェロ・ソナタ ヴィオラ版と組合せるのはおもしろい。
●開演時間になると照明が消えて真っ暗のなか、ふたりが登場。暗闇のなかでショスタコーヴィチが始まり、やがて明かりがつくという劇的な趣向。これだと拍手なしでふっと始まるのがいい。フレッシュで溌溂としたエネルギーが注ぎ込まれるが、最後はベートーヴェン「月光」モチーフの引用とともに晦渋な楽想がすべてを飲み込み、ふたたび照明が消えて漆黒の沈黙が訪れる。重い曲だけに休憩なしはどうなんだろうと思っていたら、曲間で奏者のトークが入ってよい気分転換に。ショスタコーヴィチの後に聴くラフマニノフは開放感にあふれていた。豊かなパッション、伸びやかで無理のない音楽の流れ、深く渋みのあるヴィオラの美音とブリリアントなピアノの音色の組合せにすっかり魅了される。チェロ版とはまた違った華やかさと高揚感、飛翔するような自在さを感じる。アンコールなし、充足。