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May 28, 2021

ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団のベルク&マーラー

●27日はミューザ川崎でジョナサン・ノット指揮東京交響楽団。自分にとっては超久々の生ノット。それだけでも感激だが、プログラムがベルクの室内協奏曲(ピアノは児玉麻里、ヴァイオリンはグレブ・ニキティン)とマーラーの交響曲第1番「巨人」。ピアノ、ヴァイオリン、13管楽器によるベルク作品は生演奏でこそ伝わる編成の妙。熱気にあふれ、畳みかけるような第3楽章が印象的。休憩後、舞台を見て驚く。マーラーの「巨人」ってこんなに大編成だったんだ! ウイルス禍以降、ずーっと小~中規模編成のオーケストラばかりを聴いてきたので、広い舞台をびっしりと奏者が埋め尽くす光景はあまりに新鮮。物事は相対的だと感じる。以前だったら「巨人」を特別な大編成とは感じなかっただろうけど、今の自分には異形の交響曲だ。そしてオーケストラの慣性が大きい。小編成ならハンドルを右に切ったら即座にキュッと回れるのに、巨大編成だとグオオオオ……とゆっくりと徐々に右に回りだす。大型バスみたいなイメージ。響きの質もぜんぜん違う。くっきりではなく豊麗なリッチサウンドの美学。この正反対の世界に、コンチェルトの編成を一から定義し直すような前半のベルクがあると感じる。
●ノットのマーラーは大自然と人間の営みを雄弁に伝えるもので、第1楽章の木管楽器のさえずりは奔放なほど表情豊か、第2楽章のレントラーは思い切り鄙びて田舎風味。ひとつひとつのフレーズがニュアンスをたっぷり含んでいて、音楽全体が精彩に富んでいる。第3楽章のコントラバスはソロで。第4楽章は大きなうねりを伴った高揚感あふれるフィナーレ。盛大なブラボーを空想するが、最後の一音の後に一瞬余韻のための静寂が訪れる。ここで一瞬だけ待てる客席はスゴい。その後、盛大な拍手がわき起こり、カーテンコールへ。ノットも感慨深そうな様子。スタンディングオベーションにこたえて、ノットはミニ横断幕のようなもの(タオル?)を持ってくる。開くと「I'm home ただいま」のメッセージ。客席の拍手は爆発的に。当然のようにノットのソロ・カーテンコールになったが、こんどは「Thank you! ありがとう」のメッセージを見せてくれた。客席総立ち。これは得難い体験。じんと来る。