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June 24, 2021

モデルナとヘミングウェイ


●急遽、自衛隊大規模接種センターで新型コロナワクチンの1回目を打ってきた。前日に出たキャンセル分を予約できたため。場所は大手町。ワクチンは自治体で打つとファイザーだが、自衛隊で打つとモデルナになるので、2回目もまた大手町に行くことになる。当初、65歳以上のみに対象者を限定していたため、自衛隊大規模接種センターはガラガラだと報道されていた。無理もない話で、高齢者ならわざわざ電車を乗り継いで大手町に行くよりも、近所のクリニックで打ちたいと考えるのが普通だろう。大手町はビジネスマンの街だ。そこで接種対象を18歳以上に拡大したところ、すぐに予約枠が埋まったようだ。自治体から接種券が送られてきたので、ためしに自衛隊大規模接種センターで打てないかと予約サイトにアクセスしたが、すでに空きがない。だれかがキャンセルをした場合のみ、即時的に空きが出るのだが、出たと思ったらすぐに埋まる。キャンセル分を巡って(毎度おなじみの)「チケ取り」がくりひろげられている様相だ。
●うーん。まもなく地元自治体で予約が開始される。わざわざ大手町まで出かけることはないか……。と、思いつつも、つい「チケ取り」の習慣から、予約カレンダーのページを開き、ブラウザでリロードをくりかえしてしまう。じっと待っていると、ときどきキャンセルが出るのがわかる。あ、出た。そこで慌ててクリックしても、反応速度が遅いのか、もうなくなっている。まるで釣りみたいだな。釣り糸を垂らして、キャンセルを待つ釣り人。
●たまたま前夜、ワタシはヘミングウェイの「老人と海」(小川高義訳/光文社古典新訳文庫)を読んでいた。この翻訳は本当にすばらしい。文体が簡潔で自然で、ほどよくマッチョで、老いた漁師サンチャゴに全面的に共感できる。サンチャゴはずっと不漁が続いていたが、それでも日々ひとりでメキシコ湾の沖へと向かう。ワクチンの予約サイトを眺めながら、ワタシはすっかり気分がサンチャゴになっていた。あちらでマグロ、こちらでシイラがひっかかるが、いざ引き上げようとするとスルリと逃げられてしまう。漁師に必要なのは忍耐なのか、技術なのか。サンチャゴは「八十四日間、一匹も釣れていなかった」。それでも「目の色だけは海の色と変わらない」。ワタシは的を翌日の日付だけに絞って、リロードをくりかえすことにした。決め打ちでひとつのURLに集中してリロードするのだ。なんどか獲物が引っかかるが、最後のワンクリックの段階で逃げられる。サンチャゴにもう全盛期の反応スピードはない。このあたりで引き上げるか。なにもカルロス・クライバーやワールドカップのチケットを取っているのではない。近所で打てばいいではないか。そう思いながら無意識にリロードした瞬間、空きが出た。サンチャゴはロープを全力でたぐり寄せた。クリック、クリック、クリック……。大きなカジキだ! ついに獲物を引き上げた。翌日11時30分のカジキを予約した。
●自衛隊東京大規模接種センターのオペレーションはこれ以上ないというほど整理されており、無駄なく、スムーズだった。モデルナはファイザーより2回目までの接種間隔が長い。免疫ができるのはオリンピックより後になるようだ。