July 13, 2021

祝祭 EURO2020 決勝 イタリア対イングランド

●期待通り、EURO2020の決勝戦はイタリア対イングランドが実現。会場はロンドンのウェンブリー。6万人の観客が入り、熱狂的な雰囲気に。もちろんマスクなどだれもしていない。イギリスでは感染が急拡大しているのに(参照)、みんな開放的な雰囲気だ。政府による「大規模イベント再開に向けた実証実験」と位置付けられているというのだが、リスクを負ってでも開くべき大会があるのだという強い信念を感じる。きっとイングランドでも賛否はあるだろう。片方にフットボールという「文化」を重んじる価値観があり、片方に感染を食い止めようとする「安全」優先の価値観があって、解はその両者の間のどこかにある。フットボールに価値を認めない人からすれば、これは狂気の沙汰。無観客のほうが確実に安全だし、開催しないのがいちばん安全なのはまちがいない。
●キックオフにあたり、虹色のラジコンカーがボールを運んでくる。そしてイングランドのみならず、イタリアの選手たちもみんなで片膝をついて、Black Lives Matter運動への連帯を示す。ほとんどセレモニーと化したポーズだと思っていたが、終わってみればこれが幕切れへの意図せぬ伏線となっていた感もある。
●両者とも主導権を握って勝ち上がってきた決勝戦にふさわしいチーム。違いはイタリアがより成熟したチーム、イングランドは若手の台頭が目立つチームという点か。イタリアは2トップのインシーニェとインモービレがともに30代というのがやや珍しい感じ。キャプテンのキエッリーニ36歳は別格。イタリアは4バックだが、イングランドはドイツ戦同様、3バックの布陣で来た。開始早々、イングランドに予想外の先制ゴール。右サイドからトリッピアーがクロスを入れると、イタリアの守備陣が中央に走り込んだ選手たちに引っ張られてしまい、大外でフリーのルーク・ショーが左足を合わせてゴール。拍子抜けするほどあっさりと先制点が生まれた。
●この後、イタリアがボールを支配し、イングランドが守るという構図に。後半、キエーザが単独突破から惜しいシュート。キエーザはこの試合でなんどか個の力でチャンスを作り出した。大会のスター。67分、イタリアはコーナーキックからのこぼれ球をボヌッチが押し込んで同点ゴール。イングランドは受け身になりすぎていて、仕掛けが少ない。その後、イングランドはトリッピアーに代えてサカを投入し4バックに。だが、イタリアが攻める流れは変わらず。決着はつかず、延長戦へ。どちらも2試合連続の延長戦。延長に入れば交代枠がさらに一人増えて6人になる。交代枠の増加は試合の質を高めている。
●延長の終盤になって、ようやくイングランドが攻める時間帯があったが、イタリアが消耗したのか、守りに入ったのかはよくわからない。イングランドがサンチョ、ラッシュフォードを投入したのは主にPK戦要員としてか。1対1のままPK戦に入る。イタリアが有利な先攻を引いたが、二人目のベロッティが失敗。ピックフォードがナイスセーブを見せた。これでイングランドが有利になったと思ったが、3人目ラッシュフォード、4人目のサンチョのPK要員(?)がそろって失敗。イタリアは5人目ジョルジーニョが決めれば勝利。職人芸で簡単に決めるかと思いきや、これもピックフォードがセーブ。試合中のPKはほとんど決まるものだが、PK戦のPKは本当によく失敗する。イングランド5人目は19歳のサカ。重圧のせいか、甘いコースに蹴ってしまい、ドンナルンマがセーブ。イタリアの優勝が決まった。顔を覆って泣くサカの姿を見ると胸が痛む。せめて決勝戦だけでもPK戦以外の決着方法をとれないものだろうか(たとえば選手の人数を減らした延長戦など)。結果的にラッシュフォード、サンチョ、サカの3選手が失敗したため人種差別的な暴言の標的となってしまい、FAが人種差別非難の声明を発表する事態になっている。
●優勝が決まり、トロフィーを掲げるイタリアの選手たちの姿は感動的だった。53年ぶりの優勝。なにしろ前回のワールドカップでは予選敗退している。ボヌッチがスタンドになにか叫んでいたが、ニュースによれば「もっとパスタを食え!」と煽っていたそう。なぜだ。大会の最優秀選手はキーパーのドンナルンマ。納得の人選。まだ22歳だが自信がみなぎっている。

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