January 27, 2022

SOMPO美術館「絵画のゆくえ 2022」

SOMPO美術館 「絵画のゆくえ 2022」
●新宿のSOMPO美術館で「絵画のゆくえ 2022」展。公募コンクールFACEの近年の受賞者たち12名の近作および新作約100点が展示されている。新進作家の受賞作とその後の作品を見るということで「絵画のゆくえ」。それにしてもこういう展示を眺めると、グランプリ受賞作であってもなにが傑出しているのか、正直さっぱりわからないものもあって、やっぱり自分は門外漢なんだなと思う。まあ、音楽の世界だって隣の畑から見たら同じようなものなんだろうけど……。
●が、展示そのものは存分に楽しめた。居心地のよい空間に12名分の多彩な作品が並べられている。自分が気に入った3枚を選んでみる。

町田帆実「Bento」
●まずは、町田帆実「Bento」(2021)。3×3枚のキャンバスが並べられていて、ひとつひとつにはっきりとお弁当感があるのだが、9つのお弁当の集合体が超お弁当となる盛り合わせ弁当感が吉。ポップでカラフルな絵面だが、個別のお弁当はシャレたカフェっぽいものではなく、家庭のカジュアルでリアルな弁当であり、日常を反映している。同じ作者で食をテーマにした絵画が何点もあったのだが、どれも気取りがないところがいいと思った。

奥田文子 Untitled
●続いては、奥田文子 Untitled (2021)。遠目から浮かぶイメージは水面、波紋、石、岩、水草、光の反射。しかし、このサイズの写真ではまったくわからないだろうが、よく見ると左側の波紋のところにポツンと人が立っていて、歩いている。同時に展示されている同じ作者の作品でもやはりどこかに小さな人がいて、軽く「ウォーリーをさがせ」状態になるのだが、自分の視野にある光景のなかに小人となって溶け込む非現実感があり、この小人の目にはどんな風景が見えているのかと想像させられる。Untitledとなっているが題が欲しくなる、個々の作品を区別するためにも。

小俣花名の「麻雀」
●最後は小俣花名の「麻雀」(2020)。いちばん印象的だったのがこの作者で、いずれも墨を用いた作品。どれもインパクトがあり、今を描いていても多くは昭和ノスタルジーを喚起させる作風で、これもそのひとつ。4人のオッサンが卓を囲んでいる。換気を気にして戸を開いているのだろうか、狭い場所にストーブが2台置かれており、男たちは上着を脱いでいない。手前左の男の足元にはアクエリアス、右の男の足元には飲みかけのビールが置かれている。これだけだと麻雀劇画の一場面にしか見えないかもしれないが、近くで見ると圧があり、描き込まれた細部からオッサンたちの思念が漏れ出てくる。手前左の男は軽快な手を作ろうとしたのにピンフにもタンヤオにもならない安い手ができつつあり、テンパイもできておらず困っている。右のオッサンは三色とチャンタ含みの重めの手を進めているが、やはり手が遅い。右手の立てた親指は「いいね!」ではなく、どこで退くかを迷う焦りの表現だ。ひんやりとした空気と、煙草の匂い、オッサンたちの軽い苛立ちが伝わってくる。
---------
●お知らせ。ONTOMOに連載「神話と音楽Who's Who 第8回 ヘラクレス」を寄稿。昔テレビで見かけた無名時代のシュワルツェネッガーが出演したB級映画「SF超人ヘラクレス」を紹介できて嬉しい。

このブログ記事について

ショップ