February 14, 2022

井上道義指揮読響、服部百音のショスタコーヴィチ

●天気予報通り、雪が降った10日、足元に気をつけながらサントリーホールへ。この日は本来なら読響定期でヴァイグレ指揮でシュトラウス「エレクトラ」演奏会形式が予定されていたのだが、入国制限により歌手陣が来日できず中止になり、代わって井上道義指揮でショスタコーヴィチ・プログラムが組まれた。前半がヴァイオリン協奏曲第1番(服部百音)、後半は交響曲第5番。前半は服部百音の独奏が壮絶。尋常ではない集中力で作品にのめり込む。本人にとって特別な作品であることが伝わってくる。コーナーぎりぎりを攻めるアグレッシブさがあって初めて実現する崖っぷちのショスタコーヴィチ。本来作品自体がそういうものなのだと教えてくれるような稀有な凄演で、これまでに聴いたこの曲の記憶を上書きしてしまった(意外と演奏機会は多い)。
ショスタコーヴィチ●この曲、ソリストに大変な負担を強いるが、初演の際、さすがのオイストラフも「せめて汗を拭くための休息がほしい」と作曲者に懇願したことから、ショスタコーヴィチは第4楽章の冒頭にほんのわずかにソリストの休みを作った。まさにその逸話を思い起こさせるように、ここで服部百音はハンカチで汗をぬぐったのだが、そこで肩当が落ちるハプニングがあった。あ、これは間に合わないと思ったが、すばやくリカバーしてギリギリ演奏に復帰するというよもやの離れ技。なにせ東京に雪が降るんだからこれくらいのことは起きて不思議はない。終わって放心するような演奏だったが、ソリストアンコールがあって、シューベルト~エルンストの「魔王」。
●後半の交響曲第5番も緊迫感にあふれ、前半に続いて鮮烈な演奏。骨太のタッチで描きあげる強靭なドラマ。本来の定期演奏会が中止になり特別演奏会として開催された公演で、しかも荒天も重なったのだが、客入りはよく、客席は大喝采(といっても声は出せないわけだが)。最後はマエストロのソロカーテンコールに。くるりと2回転して見せるなど、照れ隠しようなポーズを連発して喝采に応えた。

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