amazon
February 25, 2022

井上道義指揮東京フィルのエルガー、クセナキス、ショスタコーヴィチ

●24日は東京オペラシティで井上道義指揮東京フィル。エルガーの序曲「南国にて」、クセナキスのピアノ協奏曲第3番「ケクロプス」日本初演(大井浩明)、ショスタコーヴィチの交響曲第1番という強烈なプログラム。3曲それぞれまったくテイストが違うが、すべてがハイテンションで、すべてがメインプログラムといった様相。エルガーの「南国にて」は序曲と言いながらも実質的には交響詩と呼ぶにふさわしい規模を持った作品で、風光明媚な南国で過ごす高揚感、そして陶酔感が伝わってくる。ほとんどリヒャルト・シュトラウス的な音のタペストリー。
●続くクセナキスは今年生誕100年。こんな機会でもなければ聴けないピアノ協奏曲第3番「ケクロプス」。独奏は大井浩明。これまでにクセナキスのピアノ協奏曲第1番「シナファイ」、第2番「エリフソン」を弾き、これでクセナキスの3曲を制覇した世界で唯一のピアニストになるという。ケクロプスといえば半獣半人だが、音響的なイメージはさらに巨大な怪獣級。ゴジラ並みの音像がオペラシティの空間で暴れ回る。「春の祭典」を思わすような原初的なエネルギーがほとばしり、剛建な音塊が驀進するのだが、総体としての響きは美しく、荒々しさを突き抜けるリリシズムを強く感じる。エルガーとはまた違った形の陶酔感というか。この曲、おしまいのところは怪獣というよりマシーン感というか、蒸気機関車感がないっすか。スチームパンク風ケクロプスを想像。客席の反応は上々。なにしろこのプログラムで3会場3公演を開くので、さすがに客席は埋まってはいないが、拍手に熱がこもっていた。カーテンコールを一通りくりかえし、客電がついて休憩かなと思ったところでもまだ拍手が止まず、大井がもう一度登場。従来ならブラボーが飛び交う場面。
●後半のほうが短いプログラムで、ショスタコーヴィチの交響曲第1番は切れ味鋭く鮮烈。東フィルのサウンドは明るいと改めて感じる。まったくの偶然だが、ロシアによるウクライナへの大規模な侵攻が始まったその日に聴くショスタコーヴィチ。葬送行進曲風主題など、複雑な思い。曲が終わった後、マエストロのトーク。「今はいい時代じゃないね」というウクライナ情勢を念頭に置いた言葉ではじまり、「一曲目の『南国にて』と似たような題の曲」ということで、予想外のアンコール、ヨハン・シュトラウス2世のワルツ「南国のばら」より。南国で始まって南国に終わるというまさかの展開。