March 16, 2022

牛田智大のオール・ショパン・プログラム

●14日夜は東京オペラシティで牛田智大ピアノリサイタル。ホールの入り口をくぐった瞬間から客席の熱い期待感が伝わってくるような盛況ぶり。満席というだけではなく、ロビーの雰囲気からして違う。デビュー10周年を祝う東京公演限定グッズが販売されており、牛田智大オリジナルチロルチョコ・アソートがいいなと思ったのだが、牛柄のタオルハンカチも気が利いている。整理券が配られているのに気づき、グッズ売場からは撤退。これって行列に並ぶ前に整理券をもらうのかな? 自分のよく知らない文化に怯む。
●そんな華やいだ客席の雰囲気とはうらはらに、ステージ上のピアニストはいたって真摯でひたむきにショパンに向き合う。オール・ショパン・プログラムだが、重めの作品が多めで聴きごたえあり。前半がノクターン第8番変ニ長調、バラード第4番、舟歌、英雄ポロネーズ、後半が3つのマズルカop.56、マズルカ へ短調op.68-4、幻想曲へ短調、幻想ポロネーズ。前半と後半がそれぞれひとつの大きな作品であるかのようなプログラムで、特に後半は拍手を入れずに集中度の高いステージに。全体として華麗さやスペクタクルよりも作品から自然と醸し出される豊かな詩情や抒情性が強く感じられる。白眉は最後の「幻想」つながりの2曲。詩人の独白のような内省的な表現に持ち味が発揮されていたと思う。
●客席は大半が女性、若い人や子連れも多かったのだが、静かに舞台に聴き入っており、集中度はブルックナーを聴きにくるオッサンたちと変わらない。聴きたいものを聴いている人の姿は同じになるのかも。アンコールは一転して名曲集で、リストのコンソレーション第3番と「愛の夢」第3番、シューマン~リストの「献呈」、シューマン「トロイメライ」。途中でマイクを持ってあいさつ。現在のウクライナ情勢を踏まえ、当時のポーランドの状況に思いを巡らせながらショパンを弾く意義、まさに当日がデビュー10周年でありこの日を迎えることができたことへの感謝などが述べられた。プログラムノートもピアニスト本人が執筆しており、とてもためになる内容。少年時代からアイドル的な人気を博しながらも、当人は知的で成熟したピアニストへの道を着実に歩んでいることに感服するほかない。

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