April 22, 2022

大野和士指揮東京都交響楽団&藤田真央の都響スペシャル

●21日は東京オペラシティで都響スペシャル。このホールで都響を聴くのは珍しいパターン。大野和士指揮でシューマンのピアノ協奏曲(藤田真央)とリヒャルト・シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」というプログラムだったが、急遽、冒頭にシルヴェストロフの「ウクライナへの祈り」が演奏されることになった。シルヴェストロフはウクライナのキーウ生まれ。この曲は2014年にキーウで起きたウクライナ騒乱(ユーロマイダン)の際に書かれたもので、原曲は無伴奏混声合唱曲。現在のウクライナ危機を受けて作られたアンドレアス・ジースによる管弦楽編曲版で演奏された(ちなみに、ほかにエドゥアルト・レサチュ編曲による室内オーケストラ版があるのだとか)。作風は明快で、静謐な祈りの音楽。柔らかな響きがノスタルジーを喚起する。劇伴風という印象も。ニュースによればウクライナ駐日大使も臨席していたそう。
●藤田真央によるシューマンのピアノ協奏曲を聴くのは2度目。前回は会場がNHKホールだったので、あまりに広大な空間ゆえにニュアンスが伝わらないもどかしさを感じたが、今回はぐっと好条件。サッカー観戦にたとえるなら(なんでだ)、前回が日産スタジアムなら今回は味スタくらいの距離感。しなやかな自在のシューマン。アンコールはさらに本領発揮でモーツァルトのピアノ・ソナタ第15番ハ長調K.545の第1楽章。リピートで装飾を加えるなど遊び心にあふれ、チャーミング。
●後半の「英雄の生涯」は冒頭コントラバスからガツンと気合を入れて、パンチ力のあるヒーロー像。雄渾壮大だがアンサンブルは緻密で、響きは明瞭。ソロ・コンサートマスター矢部達哉のソロはのびやか。バランスの取れた堂々たる「英雄の生涯」を堪能。この曲には批評家からの嘲笑だとか、伴侶のイメージだとか、過去の業績を振り返ったり、隠遁したりといったいろんな場面が登場するわけだけど、そういった解説を一切忘れて聴くと、冒頭にシルヴェストロフが演奏されたことも手伝って、これって戦争交響曲なんだなと感じる。最後は勝利するし、たしかに平和も訪れるわけだけど、戦場の表現を普段のように戯画的に受け止められるかというと、そこは難しい気がする。文脈依存ということなのだが。
●会場は大盛況。いつもの都響とは客層がだいぶ異なるようで、若い女性が多い。先日の藤田真央リサイタルでもそうだったんだけど、小学生連れのお母さんの姿もちらほら。人気男性ピアニストならいつもそうなるかといえば、そうではないので、これは藤田真央効果なんだと思う。藤田真央の音楽には子供を連れてきたくなるなにかがあると解釈すべきなのか、あるいは子供のお母さんにアピールするなにかがあると解釈すべきなのか。客席の集中度はとても高い。

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