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June 23, 2022

鈴木優人指揮NHK交響楽団の「パッサカリアとフーガ」プロ

●22日はサントリーホールで鈴木優人指揮N響。プログラムが凝っていて、前半がバッハ~鈴木優人編「パッサカリアとフーガ」ハ短調BWV582、ブリテンのヴァイオリン協奏曲(郷古廉)、後半にモーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」。最初に置かれた「パッサカリアとフーガ」が基調となって、ブリテンの協奏曲でパッサカリア、モーツァルトの交響曲でフーガが登場して、全体に統一感がもたらされるという趣向。オーケストラのコンサートではしばしば協奏曲はソリスト都合で無関係な曲になりがちだけど、こんなにピタッとハマるとは。しかも演奏機会の少ないブリテンで。弦は対向配置、後半はバロック・ティンパニ使用、指揮は前半のみ指揮棒使用。
●一曲目、「パッサカリアとフーガ」の管弦楽版といえばストコフスキーの編曲があるわけだが、あちらはスペクタクル志向でどうしても編曲者の顔がバッハよりも先に浮かぶ。それはそれで独自の価値があるとしても、現代だったら今のバッハ観に即した編曲がありうるはず。そんな期待を満たす編曲で、21世紀のオーケストラ版バッハとして、今後広く演奏されてよいのでは。最後はほとんどオルガン的な響き。
●ブリテンでは郷古廉のソロが圧巻。現在、N響ゲスト・アシスタント・コンサートマスターを務める。切れ味鋭く鮮烈、オーケストラを背負って主役として聴く人をぐっと引き付ける力がある。曲は1940年の初演。冒頭がティンパニで始まるというパーカッションによる導入が一瞬ガーシュウィンのピアノ協奏曲を連想させるが、曲調は戦時を反映してはなはだシリアス、時節柄も手伝ってペシミスティックな思いにとらわれるほかない。第2楽章のスケルツォはプロコフィエフ風だが、パッサカリアや、長大なカデンツァからアタッカで終楽章につながるあたりはショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番を思わせる(ブリテンのほうが先)。ときにDSCHの幻聴が聞こえてきそうなくらいショスタコーヴィチ。ブリテンとショスタコーヴィチがたちまち意気投合したのも納得か。ソリスト・アンコールにイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第4番より第2楽章「サラバンド」。これも全体のプログラムに応じた選曲。休憩後のモーツァルトの「ジュピター」、ふだんであれば堂々たる壮麗な音楽として聴くところだが、ブリテンの悲劇的な空気がまだ客席に立ち込めていたせいもあってか、いくぶん渋めの色調と、早世した天才の最後の交響曲という意味合いを強く感じる。