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September 6, 2022

福岡対名古屋、暗黙のルールと無抵抗ゴール献上

●ここのところサッカーの話題が出てこなかったのは、マリノスの苦境のためだ。8月以降、一勝もしていない。7月末の段階ではリーグ優勝の可能性がかなり濃厚に思え、なおかつACLとJリーグ杯でも勝ち残っていた。が、8月、ACLもJリーグ杯も敗退し、リーグ戦は首位陥落、先週末の久々のリーグ戦でも東京相手に引き分けてしまった。これまでどうやってあんなに勝てていたのか、不思議に思えてくる。
●で、その話はともかく、週末のJリーグで物議をかもしたのが福岡対名古屋戦。福岡のクルークスが倒れたのを見て、名古屋のレオシルバがボールをタッチラインの外に出した。福岡の選手は暗黙のルールにのっとって、スローインでボールを名古屋のキーパー、ランゲラックに返そうとした。が、このボールを福岡のルキアンがカットしてクロスを入れると、よりによって先ほどまで倒れていたクルークスがゴールを決めてしまった。ランゲラックは大激怒してルキアンに詰め寄る。名古屋の選手たちも長谷川監督も猛抗議。だが、ルール上、ゴールを取り消す方法はない。どうしたらいいのか。
●福岡の長谷部監督と名古屋の長谷川監督が話し合い、福岡は無抵抗で名古屋にゴールを献上することにした。名古屋のキックオフから永井謙佑が棒立ちの選手の間を縫ってゴールにボールを流し込んだ。ビデオゲームで対戦相手が操作を放棄したときのような、異様な光景。ルキアンはまったく納得がいかないようだったが、長谷部監督はこれが唯一の選択肢と決断したのだろう。これは仕方がない。ルキアンのプレーはサッカーの競技規則には反していないが、競技の外側にある人と人の間のルールに反している。かつてプレミアリーグでも似たような事件がベンゲル監督時代のアーセナルにあったと記憶するが、ベンゲルもフェアプレイを優先させたはず。
●ただ、この場面には伏線があったんすよ。その前に福岡のディフェンスとキーパーが交錯して倒れた後、こぼれたボールを拾った名古屋がゴールを決めている。ルキアンとしては「そっちがやったのだから、こっちもやらせてもらう」という意図があったのかもしれない。だが、これは福岡の味方同士の交錯でボールがこぼれたのだから、そこで名古屋の選手がプレイを放棄するわけにはいかないし、こういった不運なアクシデントからの失点はサッカーでは珍しくない。そもそもこの場面が先にあって福岡に負傷退場者が出たからこそ、レオシルバは紳士的にボールを外に出したのだと感じた。だれにとってもうれしくない偶然がいくつも重なった末に、無抵抗ゴール献上シーンが生まれてしまった。試合結果は福岡 2-3 名古屋。福岡の選手たちにとってはメンタルのコントロールが難しかったと思う。