October 6, 2022

新国立劇場 ヘンデル「ジュリオ・チェーザレ」(新制作)

新国立劇場 ヘンデル「ジュリオ・チェーザレ」●5日は新国立劇場でヘンデルのオペラ「ジュリオ・チェーザレ」(ジュリアス・シーザー)。本来であれば大野和士芸術監督のバロック・オペラ・シリーズ第1弾として上演されるはずのプロダクションだったが、ウイルス禍で公演中止となってしまい、2年半の時を経てついに復活。 ロラン・ペリーの演出は2011年にパリ・オペラ座で上演されたもの。本来、シーザーとクレオパトラという歴史上の人物のロマンスを描いた物語だが、舞台は現代のエジプトの博物館のバックヤードに置き換えられている。巨大な彫像や絵画が収納されていて、そこで働く博物館の人々がいる空間に、シーザーやクレオパトラが現れて歴史劇を演じる。見たままに受け取ればいいとは思うが、あえて解釈をすれば博物館で働く人の古代幻想が実体化したファンタジーとでも。
●バロック・オペラなので近代的なドラマとは作法が違い、代わる代わる登場人物たちが歌を披露する「シチュエーション付き歌合戦」みたいな感じで、楽しさ爆発。このオペラって、本当に名曲ぞろいだと思うんだけど、なにがスゴいって第2幕までで相当たっぷりと美しい曲を堪能できているのに、第3幕になって「ピアンジェロ~」(この胸に息のある限り)と「難破した船が嵐から」という決定的な名曲がまだ出てくる。天才が惜しみなく才能を注ぎ込んだらこうなるというデラックス仕様。ヘンデル、恐るべし。
●ピットがすばらしい。指揮はリナルド・アレッサンドリーニ。録音ではコンチェルト・イタリアーノとの名盤でおなじみだけど、新国立劇場の指揮者として聴く機会が巡ってくるとは。オーケストラは東京フィル。通奏低音として桒形亜樹子(チェンバロ)、懸田貴嗣(チェロ)、上田朝子、瀧井レオナルド(以上テオルボ)が加わって、ぐっとバロック成分が高まったサウンド。ヘンデルの生気あふれる音楽を堪能。歌手陣はマリアンネ・ベアーテ・キーランド(ジュリオ・チェーザレ)、森谷真理(クレオパトラ)、藤木大地(トロメーオ)、加納悦子(コルネーリア)、金子美香(セスト)、村松稔之(ニレーノ)、ヴィタリ・ユシュマノフ(アキッラ)、駒田敏章(クーリオ)。森谷真理の「ピアンジェロ」は絶品。脇役だけど村松稔之のニレーノが歌も演技もすばらしくて、ものすごく効いていた。カーテンコールでも大人気。
●第1幕冒頭、物語上はチェーザレにポンペーオの首が差し出される場面があるじゃないっすか。大河ドラマなんかで敵将の首が入った首桶が出てくるけど、ああいうのを持ってくるのかと思いきや、博物館スタッフの人たちが巨大な石像の首(たぶんポンペイウスの)をリフトにぶら下げて運んでくる。笑。あちこち細部で気が利いている。全般に運搬機器の活躍多めで、荒唐無稽な歴史劇に黙役の博物館の人々による「仕事の風景」が重ねられているのがおもしろい。