October 21, 2022

読響アンサンブル・シリーズ「鈴木優人プロデュース/ル・マルトー・サン・メートル」

●20日はトッパンホールで読響アンサンブル・シリーズ「鈴木優人プロデュース/ル・マルトー・サン・メートル」。ブーレーズの「ル・マルトー・サン・メートル」(主なき槌)をライブで聴く貴重な機会。鈴木優人の指揮(一部ピアノ)、湯川亜也子のアルト、林悠介のヴァイオリン、鈴木康浩のヴィオラ、富岡廉太郎のチェロ、片爪大輔のフルート、芳賀史徳のクラリネット、金子泰士、西久保友広、野本洋介の打楽器、大萩康司のギター、大井駿のピアノ。
●プログラムは前半にブーレーズの「デリーヴ1」、バッハ~鈴木優人編の「ゴルトベルク変奏曲の主題に基づく14のカノン」、ドビュッシーのマラルメの3つの詩、クセナキスの「プレクト」、後半にブーレーズ「ル・マルトー・サン・メートル」。一見、前衛ゴリゴリのプログラムのようでいて、案外フレンドリーな構成になっていて、各曲の長さは短いので聴いていて迷子になる(?)心配は少ない(「ル・マルトー」も各楽章は長くない)。当日編成に合わせて編曲されたバッハも効果的なアクセントに。前半はクセナキス「プレクト」を聴けたのがうれしい。生誕100年に聴くクセナキスはこれでしめくくりか。洗練された行儀のよいメンバーのなかにひとりワイルドな荒くれが混じっている感が吉。ドビュッシーで湯川亜也子が声を発した瞬間に、はっと場内の空気が変わった気がする。豊かで温かく、芯のある声。後半、「ル・マルトー・サン・メートル」は、録音から受け取る澄ましたおしゃれ感とは一味違って、もう少し前へ前へと進む音楽なんだなと感じる。編成の特異さも体感。打楽器群とギターやヴィオラが共存していて、録音みたいに等距離感でツルンとまとまるはずもなく、もっと凹凸のある音響になる。でも全体としてベースにあるのはリリシズム。
●この曲って、全9曲だけど、系列の違う3つのストーリーを行ったり来たりしてて、映画でいうと「ゴッドファーザー PART II」みたいな感じなんだけど、しかも各ストーリーの順序がややこしくて「孤独な死刑執行人」パートだと、第2曲「補遺1」、第4曲「補遺2」、第6曲「本編」、第8曲「補遺3」っていう並びになる。うーん、複雑すぎる。どうして補遺が先に出てくるの。各曲の題にもとづいた全9曲の並びとしては、A1、B2、A2、B3、C1、B1、A3、B4、C2、って感じかな。「ゴッドファーザー」にはテレビ用にわかりやすく時系列を直したバージョンがあったけど、「ル・マルトー・サン・メートル」もA1、A2、A3、B1、B2、B3、B4、C1、C2に並べ替えたバージョンがあっていいかもしれない……って、それはプレイリストを作ればいいだけか。
●この日の公演は19時半開演で、19時から鈴木優人さんのプレトークがあった。とてもありがたいガイドになっていた。プログラムにクセナキスの「プレクト」が含まれていたので、「プレクトのプレトークです!」と言うビッグチャンスでもあったわけだが、それはなかった。「プレクト」が一曲目だったらあり得たかもしれないんだけどなー(ありません)。