December 7, 2022

ブルース・リウ ピアノ・リサイタル

東京オペラシティ
●ワールドカップが巨額マネーの力で無理やり秋開催になったおかげで、各チーム、これまでより短い間隔で試合をせざるを得なくなっている。本当にけしからん話なのだが、唯一、よいことがあるとすれば、シーズン中なので選手のコンディションは万全だという点。しかし、ワタシたちは連日連夜エキサイティングなコンサートが開催されているシーズン中に、真夜中やら早朝やらに試合を観るためにコンディション調整で苦労している。FIFAよ、これでいいのか……あ、この話、何度目だ?
●というわけで、5日の夜は東京オペラシティでブルース・リウのピアノ・リサイタルへ。ショパン・コンクール優勝者をようやく聴くことができた。場内は満席。女性の比率がとても高く、年齢も若め。夜の公演だが子連れの姿も。リウのファン層というよりは、ショパン・コンクール入賞者の客層はこうなるのか。同じ会場でもシフなんかのリサイタルとはぜんぜん雰囲気が違う。
●プログラムは前半がショパンで、マズルカ風ロンド、バラード第2番、「ドン・ジョヴァンニ」の「お手をどうぞ」変奏曲。後半がラヴェルの「鏡」とリストの「ドン・ジョヴァンニの回想」。前後半をそれぞれ「ドン・ジョヴァンニ」テーマで締めるきれいなプログラム。ラヴェル「鏡」の「道化師の朝の歌」もドン・ファン的な題材といえるかもしれない。ピアノはFAZIOLI。きらびやかで軽やかな音色が似合う。一曲目のマズルカ風ロンドから技術的に最高水準のピアニストであることを実感。キレもあり柔らかさもあり、表現のコントラストが鮮やかで、細部まで磨き上げられている。踊りの要素が感じられるのも吉。プログラム全体に一貫して華麗なピアニズムを堪能。
●本編のプログラムが終わると、特に1階席前方を中心にお客さんがさっと立ち上がる。これが若さなのか。アンコールを弾き出すと座り、弾き終わると立ち上がる。立ったり座ったりがめんどくさくないという機動力。アンコールは、まずラモーの「優しい嘆き」、同じくラモーの「未開人」、ショパンのノクターン第20番嬰ハ短調遺作、ショパンの3つのエコセーズop.72-3、リストの「ラ・カンパネラ」。ピアノに座るたびに客席から期待のどよめきが漏れる。特に「ラ・カンパネラ」が始まったら、客席が本当にぞぞぞっとざわついた。この雰囲気、久しく体験してなかったけど、そういえばライブにはこういう喜びがあるのだったと思い出す。あと、小学生の女の子がぴょんぴょんと飛び跳ねながら拍手していて、とてつもなく尊いものを目にしたと思った。
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