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January 10, 2023

山田和樹指揮読響、ポゴレリッチのラフマニノフ&チャイコフスキー

●7日は今年最初の演奏会で東京芸術劇場で山田和樹指揮読響。ソリストにイーヴォ・ポゴレリッチが登場するとあって7日と8日の2公演とも完売。プログラムはチャイコフスキーの「眠りの森の美女」のワルツ、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番(ポゴレリッチ)、チャイコフスキーのマンフレッド交響曲(スヴェトラーノフ版)。ポゴレリッチはいつものように譜めくりを従えて、ゆっくりと歩いて登場。事前にどんな演奏になるかまったく予測のつかない人なので身構えていたが、冒頭はノーマルなテンポで開始されて安堵(あるいは落胆?)。が、第2楽章はかなり速く、第3楽章はゆっくり始まったりと、全体に独特のテンポ設計。独自性の強い解釈は相変わらずで、ダイナミクスも特異、やや粗く、アクが強い。山田和樹指揮のオーケストラは献身的。しなやかなオーケストラと、自然な流れを拒むかのようなソリストの化学反応から生まれる規格外のラフマニノフ。アンコールはなし。
●後半、チャイコフスキーのマンフレッド交響曲はとてもパワフルだけどバランスよく整えられた演奏で、物語性豊か。バイロンの原作で描かれるマンフレッドの厭世的で超然とした人物像がよく伝わってくる。この曲のご先祖様はベルリオーズだと思うが、特に第4楽章の邪神の館の饗宴は「幻想交響曲」ゆずり。「チャイコフスキー交響曲全集」では無視されがちな不遇な作品でもあって、その原因は冗長さにあるのかもしれない。特に終楽章は長い。たぶん、そこを解決するのが今回用いられていたスヴェトラーノフ版なのだろう。スヴェトラーノフの録音で聴くことができるが、第4楽章の中盤に大幅なカットがある。さらに終盤で第1楽章の終結部にジャンプして、そのまま第1楽章のおしまいをくりかえす(その際にドラを追加して劇的効果を高める)。これで音楽的には一気に見通しがよくなって、交響曲としてのバランスがよくなる。一方で、原作のストーリーとは大きく外れて、魂の救済もなにもないまま爆発的なクライマックスで作品を閉じることになる。あと、チャイコフスキーが珍しくチャレンジした労作のフガートもばっさり削られる。通常の版と比べてどちらがいいのか、一長一短で難しいところ。なんなら第1楽章にカットの余地はないものかと思わなくもないので、いろんな魔改造版「マンフレッド交響曲」があっていいのかも。