February 10, 2023

マティアス・バーメルト指揮札幌交響楽団のシューベルト他

●9日はサントリーホールでマティアス・バーメルト指揮札幌交響楽団。札響は一年前にも聴いたが、そのときはバーメルトが入国できず、コロナ禍における「全日本首席客演指揮者」級の活躍を見せたスダーンが代役を引き受けた。今回、ようやく首席指揮者バーメルトの指揮する札響を聴けることに。マティアス・バーメルトはもう80歳。古典から現代音楽、知られざる作品まで幅広いレパートリーを持ち、古くから名前を目にしていた名指揮者が、いま札響の首席指揮者を務めているのがなんだか不思議な感じ。
●プログラムは武満徹「雨ぞふる」、モーツァルトのフルートとハープのための協奏曲(カール=ハインツ・シュッツ、吉野直子)、シューベルトの交響曲「ザ・グレイト」。生前バーメルトと交流のあった武満作品が冒頭に置かれている。札響のシーズン・テーマが「水」ということで、「雨ぞふる」が選曲されたそうだが、一夜明けた本日の東京は「雪ぞふる」で、北の大地を思わせる天候になっている。モーツァルトではウィーン・フィルのソロ・フルート奏者カール=ハインツ・シュッツとハープの吉野直子のふたりが聴きもの。清澄で優雅(この作品、人気曲だけど、自分にとってはあまりモーツァルトらしくない曲に分類されている)。アンコールにイベールの間奏曲。抜群に楽しく、爽快。
●バーメルト&札響コンビの本領発揮は後半。シューベルトの「ザ・グレイト」はきわめて見通しのよい鮮明なサウンドで、ふだんは聞こえないような声部も明瞭。骨格を明らかにするワイヤーフレームのシューベルト。明快なリズムによる推進力のある演奏で、湿気ゼロ。なるほど、これくらい首席指揮者の色に染まるのであれば、ほかでは聴けない「オレたちのオケ」になるのだなと納得。おしまいの拍手はもう一呼吸置きたかった気もするが、アンコールにシューベルトの「ロザムンデ」バレエ音楽第1番より。終演21時30頃の長丁場。帰り際に昨年同様、片栗粉のプレゼント。ありがたい。
●「ザ・グレイト」の第2楽章の後に、2階席から男の大声が発せられるアクシデントがあった。「〇〇さん!ナントカカントカ!」と叫んだ後で、ひとりで手を叩いていた。大原さん?大前さん? だれか個人の奏者に対して、叱咤したのか激励したのかなと思ったが、後からSNSを見たら「オーボエさん」と叫んでいたらしい。怒っているのか、暴れ出そうとしているのか、あるいは不条理な情動のあらわれなのか、最初はコンサート会場でときどき見かけるタイプのゾンビかと身構えたのだが(オーケストラの音も緊張感が増した、と感じた)、攻撃的な意図ではなかったらしいと後から知った。サッカーの試合で監督が檄を飛ばして手を叩くみたいなのに似てる。
●ポスターでもプログラムノートでも曲目表記が交響曲「ザ・グレイト」になっているのは見識だと思った。これがいい。本当なら「ザ・グレイト」は交響曲第9番、「未完成」は交響曲第8番のままにしおけばよかったと思うが(欠番があってなんの不都合が?)、2008年頃から急速に第8番「ザ・グレイト」、第7番「未完成」の表記が広がった。でもすでに世に出た録音物や出版物は旧番号のままなので混乱しがちだし、海外のサイトでは従来の番号のままの表記もよく見かける。だれかが携帯電話を解約したら、ほかの契約者たちはその空き番号を詰めるように番号を変更しましょう、みたいなナンセンスさを感じる。