March 10, 2023

鈴木優人指揮読響&タメスティのヴィトマン他

●9日はサントリーホールで鈴木優人指揮読響。プログラムは前半が鈴木優人作曲のTHE SIXTY(世界初演)、アントワーヌ・タメスティのソロによるヴィトマンのヴィオラ協奏曲(日本初演)、後半がシューベルトの交響曲第5番。前半の世界初演と日本初演が聴きもの。鈴木優人のTHE SIXTYは読響創立60周年を記念して委嘱された作品で、60人の編成で演奏される。これまでの楽団の歴史をふりかえるように、混沌としたエネルギーがうごめく黎明の音楽で始まって、楽団名に由来する(らしい)音列を奏でながら、時の積み重ねを複雑なテクスチャーで表現する。曲のイメージは旅だと思った。区切りをつけるというよりは、まだ先にずっと道が続く旅。
●ヴィトマンのヴィオラ協奏曲はソリストのアントワーヌ・タメスティの活躍が圧巻。楽器配置が不思議な感じで、通路みたいにスペースが空いているのだが、そこを舞台にソリストが歩き回るという趣向。最初に楽員たちといっしょにそっとタメスティが入場して、下手後方の椅子に座っている。弓は持たず、ピッツィカートや楽器を叩いたりして演奏を始め、やがて別の椅子に弓を発見して、ようやく弓奏を始める。動き回りながらオーケストラの各楽器を挑発したり、しまいには雄叫びをあげたりする様子はまるで狩人のよう。でも、最後はたっぷりとしたメロディを奏でて、静かに曲を終える。多分に演劇的な要素が込められており、ソリストには技巧だけではなく、役者っぷりも求められる。タメスティのために書かれた曲だけあって、この人のキャラクターや風貌もあっての作品だろう。曲のアイディアを思いついたヴィトマンは事前にタメスティに相談したはずである。「今度の新作でこんなことをやってみようと思うんだけどできるかなあ、いっぺん、試すてぃ?」「がってん!」。そんな会話があったとかなかったとか(←あるわけない)。
●ソリスト・アンコールは、バッハのヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ第1番ト長調BWV1027の第3楽章アンダンテ。ここで優人さんがいっしょに演奏するのは納得だが(ふたりでharmonia mundiでレコーディングもしているし)、まさか舞台上のピアノとチェレスタを片手ずつ弾くとは! トリオ・ソナタだ。
●後半はしっかりと低音の効いた重心低めのシューベルト。前半がすこぶる刺激的だったので、後半はリラックスした気持ちで楽しむデザートのよう。退任するコンサートマスター小森谷巧に花束が贈られる。
●前半、ヴィトマンが客席から呼ばれてステージ上で喝采に応えていた。11日にオーケストラ・アンサンブル金沢の定期公演を指揮するヴィトマンは、金沢でのリハーサルを終えてすぐに東京に移動した模様。それでまた金沢に戻るわけだから本当に忙しい。