March 29, 2023

パトリツィア・コパチンスカヤと大野和士指揮東京都交響楽団のリゲティ

●28日はサントリーホールで都響スペシャル「リゲティの秘密-生誕100年記念-」。大野和士指揮都響によるリゲティ~アブラハムセン編曲の「虹」(ピアノのための練習曲集第1巻より)、リゲティのヴァイオリン協奏曲(パトリツィア・コパチンスカヤ)、バルトークの「中国の不思議な役人」全曲、リゲティの「マカーブルの秘密」(パトリツィア・コパチンスカヤ)というもりだくさんのプログラム。表現に対するコパチンスカヤの規格外の獰猛さに圧倒された一夜。
●リゲティ~アブラハムセンの「虹」は日本初演。こんな編曲があったとは。ヴァイオリン協奏曲はコパチンスカヤの独壇場。第5楽章のカデンツァで歌うのは以前に映像で見たことがあったような気がするけど、それだけにとどまらずオーケストラのメンバーを挑発しつつ叫び声をあげ、指揮者、楽員、さらに客席まで巻き込んでみんなで絶叫しカオスを作り出す。こんな曲だったっけ……。大喝采にこたえて、ソリスト・アンコールでは勇退するコンサートマスター四方恭子とのデュオで、リゲティの「バラードとダンス」(2つのヴァイオリン編)。キレッキレのコパチンスカヤとエレガンスを忘れない四方さんの味わい深い二重奏。
●後半のバルトーク「中国の不思議な役人」は組曲ではなく全曲版。はたして全曲版を今までにライブで聴いたことがあったかどうか。なにせわずかな出番のために合唱団(栗友会合唱団)、オルガニストが必要になるわけで、ずいぶんぜいたくだけど、やはり全曲で聴くと作品本来の物語性が生きる。オーケストラは壮絶な、でも緻密な咆哮によってグロテスクな奇譚画を描く。血がたぎるような興奮がありつつも、最後は妙に物悲しい。これで演奏会が終わっていてもおかしくないプログラムだけど、おしまいに「マカーブルの秘密」で最大級のインパクト。コパチンスカヤがピエロ風メイクと新聞紙や膨らませたポリ袋をいくつもまとった衣装で登場して、大暴れ。そもそもヴァイオリンのための曲ではないわけだが、コパチンスカヤは歌いながらヴァイオリンも弾き、とんだりはねたり横になったり縦横無尽に動き回る。オーケストラと指揮者もこれに応戦するのだが、コパチンスカヤのパフォーマンスは突き抜けている。大野さんが客席に向かって「もう耐えられない、だれか代わりに指揮してよ~」といったセリフを発する場面も。コパチンスカヤが猛威を振るったが、カーテンコールではしっかりと四方さんを称えて温かいムードで幕。