May 15, 2023

ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団のシュトラウス「エレクトラ」(演奏会形式)

ジョナサン・ノット 東京交響楽団 「エレクトラ」
●12日はミューザ川崎でジョナサン・ノット指揮東京交響楽団によるリヒャルト・シュトラウス「エレクトラ」(演奏会形式)。同コンビによる昨年のすさまじい「サロメ」に続いて、今回は「エレクトラ」。傑作として名高いわりに聴くチャンスがなく、日本での上演は18年ぶりなのだとか。オーケストラは巨大編成で、これが普通のピットに入るとは思えない。きわめて精緻な書法で書かれており(第1ヴィオラが第4ヴァイオリンに持ち替えあり。本当に持ち替えてた)、演奏会形式でなければ体験できない領域を持つ作品と納得。ノットと東響は鮮烈でゾクゾクする。歌手陣は万全で、エレクトラ役にクリスティーン・ガーキー、クリソテミス役にシネイド・キャンベル = ウォレス、クリテムネストラ役にハンナ・シュヴァルツ、エギスト役にフランク・ファン・アーケン、オレスト役にジェームス・アトキンソン。エレクトラ役のガーキーはほとんど出ずっぱりながら、強靭でオーケストラに埋もれることがない。人外の域。演奏会形式だが、演出監修にトーマス・アレン。
●オーケストラ・パートのスペクタクルゆえに、昨年の「サロメ」は声楽付き巨大交響詩と呼びたくなるような感触を受けたけど、今回の「エレクトラ」にも同様の壮烈さを感じる。もともと両作には類似性がいくつもある。主役の女性歌手の重要性が高く、しかもその人物は常人の理解を超えたキャラクター。終盤で見えないところで殺人が起き、戦慄するのも同じ。主役女性は最終的に絶命する運命にある。ただ、物語の根幹はぜんぜん違っていて、「サロメ」はよくも悪くもセンセーショナルで一本道のエンタテインメントとして受け止められるのに対して、「エレクトラ」は物語の重心が前史にある分、ストーリーの動きよりも登場人物の内面に焦点が当てられている。音楽的にはより苛烈。陰惨な作品だからと覚悟して向き合ったのだが、意外と音楽的には甘美なところもあって、エレクトラとオレストの邂逅は純粋に家族の再会シーンとして感動的。家族の再会って、これ以上ないオペラ的なハイライトだと思う。
●最後に願いが成就したと狂喜乱舞するエレクトラも、なんというか、かわいい。仇討ちご機嫌ダンス。すごいものを観た。「サロメ」には「7つのヴェールの踊り」があるけど、「エレクトラ」にも踊りがあったよ!
●で、サロメは義父と継娘の関係から話が動くけど、エレクトラはもっとストレートに家族の物語なんすよね。だから、ある意味で普遍的な要素がある。そもそも神話は家族の物語。以前、演出家のパトリス・シェローが「エレクトラ」について半ば冗談で「普通の家族として描く、どこの家族でもあり得る物語」と言っていたけど、本当にこれって不滅のホームドラマなのかも。このオペラではすでにエレクトラの父アガメムノンは謀殺されているわけだけど、「エレクトラ」は父と娘の絆を描いた物語であるわけで、その意味で、今週新国立劇場で幕を開けるヴェルディ「リゴレット」とつながっているんすよ!