June 14, 2023

田原綾子(ヴィオラ) 東京オペラシティ B→C バッハからコンテンポラリーへ

田原綾子 東京オペラシティ B→C●13日は演奏会特異日で、平日にもかかわらず行きたい公演が4つも重なってしまった。経験上、だいたいこういう日は結局どれも聴けないというのがよくあるパターンなのだが、東京オペラシティB→Cの田原綾子(ヴィオラ)公演を聴くことに。聴く機会の少ない曲がたくさんあるのと、以前に田原さんの取材記事を書いたことがあるので。チケットは完売。プログラムは前半に西村朗のヴィオラのための「アムリタ」(2021)、武満徹の「鳥が道に降りてきた」(1994)、ヴュータンのヴィオラ・ソナタ変ロ長調、梅本佑利の「電波ちゃんは死なない♡」(2022〜23、田原綾子委嘱作品、世界初演)、後半にバッハのヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ第1番、ガース・ノックスの無伴奏ヴィオラのための「フーガ・リブレ」(2008)、森円花の「フレンズ ─ ヴィオラとピアノのために」(2022~23、田原綾子委嘱作品、世界初演)、ヒンデミットのヴィオラ・ソナタop.11-4。共演は實川風(ピアノ、バッハのみチェンバロ)。B→Cシリーズでは多くの奏者が全力投球でチャレンジングなプログラムを用意してくるけど、この日もまさに。多彩で重量級、超越的。パンチがきいている、ずしりと。
●冒頭の西村朗作品は昨年の東京国際ヴィオラ・コンクールの課題曲。「アムリタ」はヒンズー教の神話に登場する不老不死の霊薬なのだとか。幻想味豊かな異世界への旅。梅本佑利の「電波ちゃんは死なない♡」は秋葉原オタク・カルチャーに由来するハイコンテクストな作品。いわゆる「電波ソング」が題材となっているのだが、元ネタがぜんぜんわからないなりに楽しむ。作曲者は2000年代から父に連れられて秋葉原の電気街で幼少と思春期を過ごしたという。おそらくワタシは彼の父と同様にパソコンショップの街としての秋葉原に魅了された者であり、萌え化した秋葉原に縁がない。ガース・ノックスの「フーガ・リブレ」は「もしも21世紀にバッハが無伴奏ヴィオラのためにフーガを書いたら……」みたいな曲で、この日の白眉か。くりかえし聴きたくなる曲。一瞬「阿波踊り」が乱入してる気がする。笑。森円花「フレンズ」はヴィオラという楽器のキャラクターが生かされた作品で、真摯で深い祈りの中から感情の奔流がどっと流れ出すといった趣。この流れで聴くと、最後のヒンデミットに予想外の強いロマン性を感じて新鮮。かなりもりだくさんのプログラムだったが、奏者のあいさつの後、アンコールとして岡野貞一(實川風編)の「朧月夜」。ヴィオラならではの深く豊かな音色が響き渡る。