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June 26, 2023

戦時チャイコフスキー国際コンクール

●この話題は結果が出た後だと書きづらくなるかもしれないから、今のうちに。といっても、もうコンクールは開幕しており、だいぶ予選が進んでいるのだが。信じられないことに、現在、ロシアでチャイコフスキー国際コンクールが開催されている。言葉にすることもためらわれるような凄惨な戦闘がウクライナで続く一方で、戦争当事国であるロシアで国際音楽コンクールが開かれている。そんなことがありうるのだ。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、国際音楽コンクール世界連盟はチャイコフスキー国際コンクールを除名したが、だからといってコンクールが開けなくなるわけではない。ロシア連邦政府とロシア連邦文化省によるこのコンクールの公式サイトにはプーチンやゲルギエフが顔写真入りでメッセージを寄せている(リンクは張らない)。
●当初、戦時チャイコフスキー国際コンクールにはロシアおよびベラルーシや中国など親ロシア国の出場者ばかりが集まるのだろうと思っていた。特に西側諸国から潜在的な敵国であるロシアに入国するとなれば、滞在中になにが起きるかわからないし、仮に優勝したところで「戦時大会の優勝者」「プーチンのプロパガンダに協力した音楽家」というレッテルが付いてしまい、西側で活躍の場が与えられない恐れがあるのだから、出場を取りやめようと判断するのではないかと思っていた。だが、その予想はまったく甘かった。ふたを開けてみれば23か国から参加者が集まり、数は少ないがフランス、イギリス、ドイツ、アメリカ、カナダ、日本からの参加者もいるようだ。戦時に国際コンクールを開催したところで国際的な孤立が浮き彫りになるだろうと思っていたら、むしろ逆にロシアは孤立していないことを示す結果になってしまった。
●世界にはいろんな価値観がある。参加者には国籍は西側であっても、ルーツがロシアや親ロシア国にある人もいるだろう。また、グローバルサウスの国々にはロシアに対して中立的な姿勢をとる国も多い。西側にだって少数派ながら現在の戦争をプーチン寄りの視点で解している人もいるにちがいない。ひとつの出来事を人々はまったく違った認識でとらえている。それを音楽の世界で目の当たりにしたのが今回の戦時チャイコフスキー国際コンクールだと思う。