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June 27, 2023

オペラ対訳×分析ハンドブック リヒャルト・シュトラウス 楽劇 エレクトラ(広瀬大介訳・著/アルテスパブリッシング)

●先月、ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団の「エレクトラ」を聴いた際、会場で飛ぶように売れていたのがこの一冊。「オペラ対訳×分析ハンドブック リヒャルト・シュトラウス 楽劇 エレクトラ」(広瀬大介訳・著/アルテスパブリッシング)。前作「サロメ」に続くシリーズ第2弾がめでたく発売。オペラの対訳と分析が一体となったハンドブックで、見開きの左ページが対訳、右ページが音楽面の解説という構成になっている。そして、前作は絶望的なほど文字が小さかったが(←老眼)、今作は少し大きくなっている。それでも小さいけど。でもこの一歩は大きな違い。ありがたし。
●この本のすばらしいところは、オペラの対訳として実用性があって、なおかつ研究書として専門性があって、それに加えて本としておもしろく読める、っていう「一粒で三度おいしい」ところ。広瀬さんの解説はいろんな角度からためになると思うけど、慣習的なカットの問題ひとつとっても有益。この部分があるとないとじゃ、ずいぶん物語の印象が違ってくるなということが腑に落ちる(カットにはきっと実演上の切実な理由があるにせよ)。
●あと、音楽抜きで純粋に台本だけを読んでいると、エレクトラの怪女っぷりが一段と強烈に感じる。現実のオペラ歌手より、もっと汚く醜いイメージが浮かび上がる。一方、「結婚して子供を産みたい」と場違いなほど平凡な願いを抱く妹クリソテミスのキャラも際立っている。終盤、オレストが死んだという誤報を受け取って、わたしたちが事を成就しなければとエレクトラが懸命にクリソテミスを説得する場面がなんとも味わい深い。妹よ、いっしょにあいつらをやればきっと結婚できるよ~みたいな姉妹の会話。尋常じゃないけど、実はどこにでもあるホームドラマなのかも。