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February 20, 2024

大井浩明の「Schubertiade von Zeit zu Zeit シューベルトの時の時」第4回

●16日夜は松涛サロンで大井浩明のフォルテピアノ。「Schubertiade von Zeit zu Zeit シューベルトの時の時」と題された全5回シリーズの第4回で、フォルテピアノによるシューベルト・シリーズ。毎回、シューベルト作品に加えて、フォルテピアノのための現代作品の初演も含まれる。使用楽器はタカギクラヴィア所蔵のヨハン・クレーマー(1825年ウィーン/80鍵/4本ペダル)。第4回のプログラムは、前半にシューベルトのソナタ第8番嬰へ短調D571(R.レヴィンによる補筆完成版/日本初演)、3つのクラヴィア曲D946、ソナタ第16番イ短調D845、後半に南聡の「帽子なしで a Capo Scoperto」Op.63-4(世界初演)、ソナタ第20番イ長調D959。ぱっと見、すごく長いプログラムなのかと身構えてしまったが、最初のソナタ第8番補筆完成版が約8分、南聡の新作が約5分ということで、通常の範囲。
●フォルテピアノ、録音を通して聴くのは容易になったけど、現実には演奏会でソロを耳にする機会はすごく限られているし、機会が増えているという実感もない。今までフォルテピアノでシューベルトを聴いたことがあったかどうか。なので、楽器の音色や機能がもたらす印象が鮮烈。モダンピアノの音色表現が連続的なグラデーションをなすとすれば、フォルテピアノはもっと離散的というか、音域ごとの音色の違いやペダル機能が劇的な変化をもたらす。加えて、楽器の筐体。工業製品であるモダンピアノの堅牢性に比べるとはなはだ華奢に見える。にもかかわらず、最強奏時の突き抜けるような響きは衝撃的。楽器の限界ぎりぎりなんじゃないかと心配になるほどなのだが、そんな慄きが作品世界と呼応していたのがソナタ第20番。端然とした造形のシューベルトだがきわめて劇的。圧巻。
●アンコールにシューベルトのソナタ「グラン・ドゥオ」D812第4楽章の独奏版(というのがあるのだとか)。トークでこの曲とブラームスのピアノ五重奏曲終楽章との類似性などの話があって、客席がほっこり。