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February 21, 2024

東京芸術劇場コンサートオペラ vol.9 オッフェンバック「美しきエレーヌ」

東京芸術劇場 美しきエレーヌ
●17日は東京芸術劇場コンサートオペラ vol.9 オッフェンバック「美しきエレーヌ」へ。演奏会形式ながら、日本ではほとんど上演されないオペレッタなので貴重な機会。というか、プロフェッショナルな公演としてはおそらく日本初演となる模様。演奏会形式といっても独自の構成による演出が施され、衣装も演技もあり。辻博之指揮ザ・オペラ・バンドとザ・オペラ・クワイア、エレーヌ役に砂川涼子、パリス役に工藤和真、メネラオス役に濱松孝行、アガメムノン役に晴雅彦、オレステス役に藤木大地、台本・構成演出は佐藤美晴。語りは声優の土屋神葉。歌唱は原語、台詞は日本語というスタイルで、もっぱら語りがストーリーを進める。
●まず、土屋神葉の語りの芸達者ぶりがすごい。声優ってこんなことができちゃうんだという驚き。コミカルな調子でナレーションを務めつつ、要所要所で声色を変えて各役の台詞もこなす。この軽やかさはオペラ歌手だけでは実現できない領域。歌手陣は砂川涼子による可憐なエレーヌ、工藤和真のヒロイックなパリスが印象的。オーケストラの編成はコンパクト。N響メンバーが多く、くっきりとして整ったサウンドで、歌とのバランスもよい。演出もスマート。安心して観ていられる。
●と、個々の要素は高水準だったと思うのだが、これで「美しきエレーヌ」という作品を十分に味わえたかというと、そこは悩むところ。特に序盤は語りの分量が多く(めちゃくちゃうまいのだが)、もっとたくさん音楽を聴きたいんだけどな……というもどかしさも。それと、風刺やパロディといった要素を公的な劇場でどう扱えば正解なのか、ということも考えさせられたかな。なんにも毒気がないのもどうかと思うけど、かといって、センスのない風刺ほど寒いものはないわけで。
●ともあれ、このシリーズ、いつもチャレンジングな演目で、この劇場に欠かせない名物企画になっていると思う。今回、客入りは寂しかったのだが、芸劇の企画って、全般にコツコツ当ててくるというよりはブンブン振り回してくる思い切りの良さがあって、そこが好き。