●30日は東京文化会館で下野竜也指揮都響。トリスタン・ミュライユの「ゴンドワナ」、夏田昌和のオーケストラのための「重力波」、黛敏郎の「涅槃交響曲」(東京混声合唱団)というスペクトル楽派プロ。当日券も含めて完売! 客席にふだんとは違う熱気と期待感が渦巻いていた。どれも録音では魅力が伝わり切らない作品で、会場で音響に身を浸す体験型プログラムとでもいうか。トリスタン・ミュライユの「ゴンドワナ」は1980年の作品。すでに45年も前とは。曲名に引っ張られる必要もないのかもしれないが、ゆっくりとした響きの移ろいや周期性、反復性から地質学的スケールで緩やかに移動する大陸の姿を連想する。時間の概念がなくなってくるというか。波打つようなイメージも喚起されるが、次の夏田昌和「重力波」も波なのだった。こちらは2004年の作品。バスドラム中心の打楽器が舞台奥中央、1階客席中央の左右と3か所に配置され、立体的な音響を作り出す。曲名が示唆するような「時空の歪み」や「微細な脈動」といったイメージを受け取りつつ、響きにどっぷり身を任せる。終盤、長い沈黙の後にドラマティックな終結。壮麗。くりかえし聴きたい作品。作曲者臨席。演奏後、ステージに呼び出されて満場の喝采。
●後半の黛敏郎「涅槃交響曲」は東京混声合唱団が大人数の男声合唱で共演。1958年の作品とあって、今聴くと昭和の名曲というか、歴史的な作品の領域に入っていると実感する。こちらも1階客席中央の左右にそれぞれ木管、金管を中心とした小アンサンブルが配置される。第1楽章「カンパノロジーⅠ」は鐘の音の再現。案外と旋律的とも。第2楽章で男声合唱が加わってお経が始まると、一気に仏教カンタータ風に。バッハにコラールが出てくるように、お経。ストラヴィンスキー「春の祭典」の影響もかなり強く感じる。むしろスペクトルや仏教以上に「春の祭典」チルドレンかも。この時代、ストラヴィンスキーの感染力は尋常ではない。
●下野さんの指揮が、すごく明快でスムーズで見惚れてしまう。とても複雑な動きなのに、余裕すら感じる。
May 1, 2025