●映画「怪盗クイーンの優雅な休暇(バカンス)」(池田重隆監督)を観る。怪盗クイーンシリーズといえば、はやみねかおる著の児童文学の名作。原作は講談社「青い鳥文庫」から刊行され、2002年の第1作以来、累計発行部数は120万部を超えるという大ヒット作だ。映画の第1作「怪盗クイーンはサーカスがお好き」を以前にご紹介しているが、今回の第2作「怪盗クイーンの優雅な休暇」は前作より格段にパワーアップしている。まちがいなく傑作。キャラクター設定の妙、テーマの現代性と昭和センスのギャグのアンバランスな融合、ストーリー展開のスピード感など、完成度がきわめて高い。なお、各回は独立したストーリーなので、前作を知らなくても楽しめる。
●アルセーヌ・ルパンや怪人二十面相の伝統を受け継いで、怪盗クイーンは変装の達人。ただお宝を盗めばいいというのではなく、いかに華麗に盗むかという美学にこだわる。このシリーズの秀逸なところは、クイーンその人が性別も年齢も国籍も不明とされているところ。とくに性別を不明と設定した先見性には脱帽するしかない。今ならともかく、2002年スタートの児童書なのだ。さらに今回、感心したのは人工知能RDというキャラクター設定。このキャラクターをいかにも空想的な人工知能であり、ギャグの文脈でのみ受け入れられるものと思っていたが、今回の作品を観て「RDって、なんだかChatGTP味があるんじゃない?」と思ってしまった。AIと人間の対話として、ぜんぜんリアリティがある。時代が怪盗クイーンに追いついてきた。
●後で気がついたのだが、イルマ姫役の声優がCocomiだった。うまくて、びっくり。姫として生まれ、その将来が定められているなかで自分の人生を見つけてゆくという役柄。納得の配役。
●おそらくこの映画の主なファン層は、子どもの頃に怪盗クイーンシリーズを読み耽った人たちだろう。30代初めから小学生までが対象か。その一方で、原作者はやみねかおると同世代の人間から見てくすぐられるところも多々あって、このシリーズのストライクゾーンは案外広いんじゃないかと思う。
May 29, 2025