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August 1, 2025

偉大なるロジャー・ノリントン

●ロジャー・ノリントンが2025年7月18日、91歳で世を去った。引退したのは2021年11月。ピリオド楽器オーケストラのロンドン・クラシカル・プレイヤーズを創設して、80年代から90年代にかけて旋風を巻き起こした。この頃は「録音で聴く指揮者」であって、アーノンクール、ブリュッヘンらと並ぶ古楽の大スターとうい認識だった。その後、シュトゥットガルト放送交響楽団(SWR)の首席指揮者を務めて、モダンオーケストラにおけるピリオド・アプローチの実践で新時代を築いた。録音もたくさんある。で、日本の聴衆にとってありがたかったのは、NHK交響楽団にもたびたび客演してくれたこと。なかでもベートーヴェンは忘れがたい。これまでにN響で聴いたベートーヴェンのなかで、まちがいなく最高の体験だったと思う。真摯なもの、深遠なものには必ずユーモアが備わっているという確信を持った。
●ノリントンとN響がロバート・レヴィンのソロでベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番を演奏したとき、第1楽章でレヴィンは見事な自作のカデンツァを演奏した。すると、第1楽章が終わったところでノリントンはレヴィンに向かってニコニコしながら「パチパチ」と音を立てて拍手をした! 楽章間の拍手は控えましょうという世の中で、指揮者が率先して拍手するという荒技。客席からも追随してパラパラと拍手が出て、これは「ピリオド聴法」だなと思った。
●ノリントンはよく客席を向く。N響でのベートーヴェンの交響曲第8番で、第1楽章でも第2楽章でも終わるところで客席を向く。「ほら、これ、おもしろいよね」という表情だったと思う。聴衆とコミュニケーションをとり続けた指揮者だった。カーテンコールでも両手を大きく広げて「どうだー!」とポーズを決めてくれたりとか。ステージ上ではいつも上機嫌。そういうところが知的だなと思った。
●あとは「第九」を振る前のインタビューも忘れられない。インタビュアーはオヤマダさんだったかな?(違ってたらゴメン)。たしか、「第九」でもベートーヴェンのメトロノーム指定を守るんですか、みたいな質問だったと思う。もしそうなら高速「第九」になって60分くらいで終わる。もちろん、ノリントンの答えは「イエス」。そして、こう言ったのだ。「だからみなさん、今日は早く帰れますよ!」。最高じゃないだろうか。
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●4日(月)のブログ更新はお休みです。プチ夏休み。