●30日はふたたびあずさに乗って松本へ。セイジ・オザワ松本フェスティバルでクリストフ・エッシェンバッハ指揮サイトウ・キネン・オーケストラ。演目はマーラーの交響曲第2番「復活」。ソプラノにアレクサンドラ・ザモイスカ、メゾ・ソプラノに藤村実穂子、合唱にOMF合唱団と東京オペラシンガーズという布陣。松本バスターミナルからシャトルバスに乗ってキッセイ文化ホールへ。
●ここ数年、N響やベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団など、毎年のようにエッシェンバッハの指揮を聴いてきて、80代とは思えない矍鑠とした指揮ぶりに「鉄人」のイメージを抱いていたが、今回ばかりは様子が違っていた。助けを借りつつ自力で歩行するが、転倒するのではないかと気が気ではなかった。身体がずいぶん小さくなって見える。指揮台には椅子を設置。同様の老巨匠の姿はなんども見てきたはずだが、なぜかエッシェンバッハは時の流れに逆らえるものと思っていたので、軽いショックを受ける。
●客席から指揮棒の動きはよく見えないが、この大編成を統率するのは容易ではない。サイトウ・キネン・オーケストラは全力でエッシェンバッハの動きに食らいついて、巨匠の音楽を形にしていたと思う。エッシェンバッハの本領は異形のマーラーというか、滑らかに音楽が流れることを拒み、軋みのなかから作曲家の本質に迫ろうとするような音楽。オーケストラのひたむきな献身性に圧倒される。情熱と感情の爆発で衝き動かされる「復活」ではなく、巨大な建築物を仰ぎ見るようなマーラーに。第4楽章で藤村実穂子が一声を発した瞬間に客席内の空気が一変したのは印象的。合唱は力強く荘厳。
●拍手の後、いつものようにオーケストラが退出後にふたたび楽員がそろって登場。さらにその後でエッシェンバッハと独唱陣の3人が姿を見せて喝采。舞台脇のスクリーンに小澤征爾の姿が映し出され、なんともいえない気持ちになる。
September 1, 2025