●12日は珍しくダブルヘッダー。しかも平日だ。14時からすみだトリフォニーホールでジャン=クリストフ・スピノジ指揮新日本フィル。暴れん坊スピノジが帰ってきた。個人的にはかなり久しぶりのスピノジなので楽しみにしていた公演。プログラムはイタリア・バロック&オペラで、前半はヴィヴァルディの「四季」、後半は砂川涼子のソプラノが入り、ロッシーニの「セビリアの理髪師」序曲、プッチーニ「ラ・ボエーム」より「私が街を歩くと」、ヴェルディの「椿姫」前奏曲、ベッリーニの「カプレーティ家とモンテッキ家」より「ああ、幾たびか」、ロッシーニの「泥棒かささぎ」序曲、プッチーニの「ジャンニ・スキッキ」より「私のお父さん」、ロッシーニ「ウィリアム・テル」序曲より「スイス軍の行進」。期待通り、抜群の楽しさ。
●冒頭からスピノジがソロ・コンサートマスターの崔文洙と肩を組んでふたりで仲よく登場。で、「春」のソロを崔が立って弾き、スピノジがヴァイオリンを持ってコンサートマスターの席に座ってアンサンブルをリードする。ところが「夏」ではスピノジがソロを弾きながら指揮をして、また「秋」になると崔がソロを弾くという変則的なスタイル。演奏はめっぽうおもしろく、これぞ音楽の喜び。伸縮自在のテンポ、長い休符。「秋」の第2楽章は聞こえないほどの最弱音からゆっくりと始まり、無からわきあがるかのよう。後半のオペラ名曲集も奔放雄弁。アリアはベッリーニを聴けたのが吉。おしまいの「スイス軍の行進」はそれ自体が予定されたアンコールみたいなものだが、喝采にこたえてもう一度。本編よりも高速テンポで駆け抜けた。場内わきあがり、最後の一音にかぶせて拍手がダーッと起きたのは吉。ちなみにチケットは完売。平日の昼公演、強し。
●この日は新日本フィルから日本フィルへの移動。夜、サントリーホールで絶好調のコンビ、カーチュン・ウォン指揮日本フィル。プログラムはマーラーの交響曲第6番「悲劇的」。もともと大編成だが、コントラバスが10台も。冒頭からすさまじい気迫で、コントラバスが楔を打ち込むようにリズムを刻む。緊迫感みなぎる巨大な軍隊行進曲。重く、強靭。中間楽章の順序はスケルツォ、アンダンテ。終楽章はテンションマックスのノンストップ悲劇。2度のハンマーは重く鈍い打撃音。音圧も強く、これまでに聴いたなかでもっとも峻烈な「悲劇的」だったと思う。もう当分、この曲は聴かなくていいかも。客席は大喝采で、楽員退出後も拍手が衰えず、カーチュンが主要奏者とともに登場して大喝采に。
●日本フィルは26年に創立70周年を迎える。先日開かれた記者懇談会には予定が合わず行けなかったのだが、2026/2027シーズンから定期演奏会が4月はじまりになるそう(従来は9月はじまり)。それに伴い、2025年9月~2026年3月を移行期間(プレ70周年期間)として6回の定期演奏会を開く(→2025/26シーズン定期演奏会及び、シーズン開始月・横浜定期演奏会開演時間 変更のお知らせ)。音楽界のシーズンは欧州式の秋はじまりから日本式の春はじまりに移りつつある傾向を感じるが、サッカー界は逆に日本式の春はじまりから欧州式の秋はじまりに移行しようとしていて、業界の仕組みの違いを感じる。