●26日はサントリーホールでウラディーミル・ユロフスキ指揮バイエルン国立管弦楽団。バイエルン国立管弦楽団、つまりバイエルン国立歌劇場のピットに入っているオーケストラ。オペラ上演ではなく、単独のオーケストラ公演として聴くチャンスはめったにない。このオーケストラはかつて事実上のカルロス・クライバーのオーケストラでもあり、86年にクライバーとのコンビで伝説的な来日公演があったわけだが、そちらは聴いていない。
●今回のプログラムは前半がモーツァルトで交響曲第32番ト長調(急─緩─急の序曲)、ピアノ協奏曲第23番イ長調(ブルース・リウ)、後半がリヒャルト・シュトラウスで「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」、組曲「ばらの騎士」。オーケストラの持ち味なのか、ユロフスキのおかげなのか、音色が大変すばらしい。味が濃いというか、風味がやたらと強い。前半のモーツァルトは弦が刈り込んであるにもかかわらず、太くてコクのある音が出てきてびっくり。リッチテイストのモーツァルト。ブルース・リウはテクニシャンぶりを発揮して、洗練されたタッチ。自然体というよりは巧緻さがまさったモーツァルト。アンコールはなぜかショパン「小犬のワルツ」。精巧なミニチュアを見るかのよう。
●後半のシュトラウスはオーケストラの真骨頂。ユロフスキの造形はときにユニークで、変化に富んだ音色表現もありニュアンス豊か。戯れる「ティル」の後で聴くと、「ばらの騎士」冒頭もカッコよさばかりではなく田舎風味が滲んでいることを思い出す。途中で楽員たちが唸り声を入れる演出があったけど、あれはなんなのだろう。おしまいは畳みかけるように盛り上げて爽快なクライマックスを築いてくれたのだが、この組曲の最後の最後の部分はとってつけたようなぶった切りエンディングで終わるという例の問題が……。だれが書いたんだっけ、これ。ともあれ、演奏は最高だった。会場はわきあがり、アンコールはヨハン・シュトラウス2世の「こうもり」序曲。リヒャルトからヨハンにつながるとは。十八番といった様子で、ユロフスキはオーケストラを気持ちよく振り回して大喝采に。カーテンコールの後、ユロフスキがふっと腕を上げて、立つ合図かと思った何人かの楽員たちが腰を浮かせたが、ユロフスキはそのまま次のアンコールを振り始めて、超ダッシュでポルカ「雷鳴と電光」が始まるヒヤリハット。まさに雷が落ちたような慌てぶりで、第1ヴァイオリンの2列目から最前列に楽譜が渡される場面も。演奏はノリノリ。「ばらの騎士」があって、「こうもり」序曲から「雷鳴と電光」という流れはどうしたってカルロス・クライバーを連想せずにはいられない。伝説は静かに続いている。
●この日、客席には鑑賞教室と思しき高校生の大集団がいた。かなり人数が多い。開演前や休憩中の高校生たちは「だりぃ〜」って感じなんだけど、演奏中はいるのかいないのかわからないくらい静か。これは何度も経験していることだが、若者たちはいかにも「やらかしそう」に見えても、実際には行儀がよい。自分たちの高校生時代だったらあんなにおとなしくはしてられなかったはずで、今の子だなあと感じる。
September 29, 2025