●5日は東京芸術劇場でヨーン・ストルゴーズ指揮都響。ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲(ヴェロニカ・エーベルレ、カデンツァはイェルク・ヴィトマン、日本初演)とシベリウスの交響曲第3番という前半が重いプログラム。ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲では、エーベルレが強く芯のある音で気迫のソロ。完成度が高く、ふつうに演奏しても大名演だが、この日はイェルク・ヴィトマンによるカデンツァが演奏された。本編の素材を使っているものの書法はモダンで、完全にヴィトマンの作品になっている。第1楽章のカデンツァでは、コントラバス奏者が指揮者のわきまで出てきて、独奏ヴァイオリンにコントラバス、ティンパニが加わる。第2楽章のカデンツァではコンサートマスター(水谷晃)も加わって二重奏に。第3楽章のカデンツァでは、またもコントラバス、ティンパニが加わり、第1楽章冒頭のティンパニ主題が帰ってきて「ふりだしに戻る」感。先日、ルイージ指揮N響でもベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を聴いたが、あのときのマリア・ドゥエニャスのカデンツァも長いと思ったが、ヴィトマンはもっと念入り、饒舌。とても長大な曲になった。ここまで来ると、古典的書法の作品に突然モダンな響きが混入してハッとするという段階を超えて、ベートーヴェンとヴィトマンが合作して誕生したキメラだと感じる。しかし、本来は奏者に自由が与えられた即興的なものだったはずのカデンツァが、こうして他者の作曲家が創作した再現芸術として「日本初演」されていることに、あれこれと思いを馳せずにはいられない。大喝采の後、アンコールにエーベルレと水谷晃で、バルトークの2つのヴァイオリンのための44の二重奏曲より第43番「ピツィカート」。
●後半のシベリウスの交響曲第3番は快演。小ぢんまりとした古典的な曲だが、弦楽器からすごい音が出ていた。目が詰まっているというか、緻密で濃い。前半に負けないインパクト。都響の合奏能力の高さとストルゴーズの手腕に感嘆するばかり。この曲、3つの楽章でできているのだが、第3楽章後半に出てくるコラール風とされる主題は、なにか元ネタがあるのだろうか。いかにも童謡とか農民歌にありそうに思えるのだが。
October 6, 2025