Books: 2005年11月アーカイブ

November 30, 2005

「技術力」(西部謙司著/出版文芸社)

技術力●西部謙司氏の最新刊「技術力 ~ サッカー 世界のスタープレーヤー」(出版文芸社)。選手ごとに特にその技術的特徴に着目して綴られたエッセイで、登場するのはアンリやフィーゴ、ランパード、マケレレから松井や中澤まで多彩。おもしろく書ける人は何を書いてもおもしろいんだなと改めて実感。新鮮な視点もあるし、一方ごくフツーにみんなが了解しているようなことも多いんだけど、どれを読んだっておもしろい。たぶんこういう人は「朝起きて顔洗って歯を磨きました」ってことだけを書いたって、読ませる文章になると思う。サービス精神があるから。
●たとえばデコ(バルセロナ)の章に付けられた見出しは「老成」。ポルトガルでもなかなか成功できずに2部リーグにいたり、フットサルに転向したりした苦労人の実力者について。

デコがいれば、どんな状況でも解決できる。例えば、あのリバウドですら、トラップの置き所が悪いといって試合中にドゥンガに怒鳴りつけられていたことがあったぐらいだが、デコにはその手の未熟さが少しもない。妙にプレーが老成している。ボールの止め方、動かし方から、ファウルのもらい方まで、デコは何でも知っている。

 デコっていっつも心配そうな表情をしているなーと思ってたんだけど、あれは知恵がたくさんつまっている人の顔だったんすね。

November 16, 2005

「女王様と私」(歌野晶午/角川書店)

女王様と私●すごいなこりゃ。キモヲタ小説の傑作→「女王様と私」(歌野晶午/角川書店)。ミステリなのでネタバレしないように慎重にならなきゃいけないのだが、同じ作者の「葉桜の季節に君を想うということ」からトリックを抜き去っても時事的なテーマ性が残されたように、「女王様と私」にもニートひきこもりオタクのごく近未来の姿をさらりと提示している部分があって、この視点は鋭い。シニカルな笑いに満ちていながらも、描かれたキモオタ像の圧倒的なリアリティに感心するのだが、しかし待て。よく考えたらワタシはこんなにも類型的かつ変態的キモヲタを身近には知らない(いたら大変だ)。でも「これがキモヲタ」っていうワタシらが漠然と描く共通理解があって、それをこれでもかというくらい見事に掬いとって描いてくれる。
●主人公と「妹」絵夢の会話もすごいっすよ(この種のヲタ世界では「妹」ってのはカギ括弧つきの特殊概念なのだ。ワタシゃリアル妹がいるからさっぱり理解できないけど)。

「だから最初にゆったんだぉ、どこでもいいって。だってぇ、絵夢が何とゆおうとぉ、おにぃちゃんが行きたくないところにゎ連れてってもらえなぃんだもン、いっつも」
「そんなことないじゃん」
知らず声が大きくなる。
「でぇ、おにぃちゃんゎどこ行きたいのぉ? 秋葉原ぁ?」
ぱっちり開いた、少し緑が入った瞳で見つめられる。
「行きたくないよ」
「中野ブロードウェイ?」

●小説としての仕掛けの部分でギョッとするようなところがあるってのは、章に付された見出しをみれば想像がつくんだけど、しかしまさかこんなことになろうとは。主人公の人物造形はキモヲタだけあって相応に気色悪いんだが(真性ロリなとことか)、そんなヤツが「このままじゃ日本はダメになる」みたいな義憤を覚えたりするところとか、かなり可笑しい。でもオタクとしての普遍的要素に共感しちゃうところとかあると思うんだな(笑)、クラヲタの場合。普段は口下手なのに、自分が好きなものについて語るときだけやたら饒舌になっちゃうところとか。
●やっぱりオタクは暗黒面に堕ちちゃダメ、黒いオタクより白いオタク、オビ=ワンの教えを守ってアナキンにならないようにしなきゃ(なんじゃそりゃ)。

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